着水した、という感覚は無かった。一瞬意識が飛んで、気がつくと船は再び海面に浮かんでいた。しかし、そこは先ほどまでいた洞窟でも、監獄島付近の海でもない。周囲には霧がかかっており、薄暗いものの僅かな明るさがあった。時刻は夜であったはずだが、今は日中のように思える。空気はひやりとしており、肌寒さを感じた。
現実感の無い異様な空間に、メイズは奏澄の体を抱き寄せた。――いや、抱き寄せようと、した。
「――カスミ……?」
腕の中は、空だった。メイズの全身から、血の気が引いた。まさか。
「カスミ!!」
あらん限りの大声で叫んだが、応答が無い。心音が、耳にまで響く。
自分が、手を離すはずがない。そんなはずはないのに。
「メイズさん!」
意識を取り戻したライアーが、メイズに声をかける。
「カスミは!?」
真っ青な顔で答えないメイズに、ライアーは愕然とした。しかし、メイズの様子を見て、自分が何とかせねばと思ったのだろう。船を見渡し、仲間たちに声をかける。
「すぐに全員いるか確認しろ!」
意識を取り戻した者から名乗りを上げ、それぞれが所在を確認する。結果、全員無事だった。船長ただ一人を除いて。
「まさか、どっか吹っ飛んじまったんじゃ……」
「縁起でもねぇこと言うなよ!」
デリカシーのないラコットの発言に、レオナルドが声を荒げた。しかし完全に否定はできない。ざわつく乗組員たちをよそに、ハリソンは何かを考え込んでいる。
メイズは、周囲を気にする余裕が無かった。何故。確かに、この腕の中に、いたのに。まるで霞のように、消えてしまった。
――『でもほら、可能性の話として、いきなりこっちに来たわけだから。いきなり向こうに帰っちゃうってことも……』
いつかの言葉が、急に蘇る。思考を搔き消すように、乗組員の声が上がった。
「おい! 島があるぞ!」
その言葉に皆が目を凝らすと、霧の中にうっすらと島が見えた。それほど距離もないのに、気づかなかった。やけに存在感の曖昧な島だ。
不気味に感じながらも、コバルト号を島に寄せる。現状、ここがどこなのかの手掛かりは、この島にしかないだろう。
「ね、ねぇ……あれ、なんだろう」
呆然とした様子で、アントーニオが空中を指さした。そちらに目を向けると、島近くの海上に大きな枠が浮かんでいた。
枠、としか言いようがない。六角形のそれは、巨大な船でも潜り抜けられそうなほどの大きさをしていた。鏡のようにも見えるが、映している海は、こことは違うようだった。
明らかに異様な物質に皆が言葉を失っていると、島の方から低い男の声がした。
「あれは、窓だ」
急に割って入った声に、全員が一斉にそちらに視線を向けた。見ると、島の端に一人のガタイの良い男が立っており、メイズたちのいる船上を見上げながら、小銃を構えていた。
「お前たちは、何者だ。どうやってここへ来た」
厳しい視線からは、敵意と怯えが見て取れる。メイズが意識を研ぎ澄ますと、姿を見せている男以外にも、何人かの気配を感じた。突然現れた海賊に、警戒しているのだろう。
どうしたものか、と考えていると、マリーが身を乗り出して答えた。
「あたしたちは、『はぐれものの島』を探しているんだ。島の人間に危害を加えるつもりはないから、安心して。ここは、はぐれものの島なのかい?」
「何故、はぐれものの島を探している」
女性であるマリーの姿にも、言葉の内容にも、一切の警戒を解くことなく、島の男は再び問うた。
「あたしたちの仲間に、はぐれ者がいる。だけど、ここに来て、突然姿を消した。何か知ってるなら教えてほしい。降りて話をさせてくれないかい?」
その言葉に、男はようやく警戒以外の反応を見せた。背後を窺うようにした後、銃を下ろし、重々しく口を開いた。
「……わかった、話を聞こう」
現実感の無い異様な空間に、メイズは奏澄の体を抱き寄せた。――いや、抱き寄せようと、した。
「――カスミ……?」
腕の中は、空だった。メイズの全身から、血の気が引いた。まさか。
「カスミ!!」
あらん限りの大声で叫んだが、応答が無い。心音が、耳にまで響く。
自分が、手を離すはずがない。そんなはずはないのに。
「メイズさん!」
意識を取り戻したライアーが、メイズに声をかける。
「カスミは!?」
真っ青な顔で答えないメイズに、ライアーは愕然とした。しかし、メイズの様子を見て、自分が何とかせねばと思ったのだろう。船を見渡し、仲間たちに声をかける。
「すぐに全員いるか確認しろ!」
意識を取り戻した者から名乗りを上げ、それぞれが所在を確認する。結果、全員無事だった。船長ただ一人を除いて。
「まさか、どっか吹っ飛んじまったんじゃ……」
「縁起でもねぇこと言うなよ!」
デリカシーのないラコットの発言に、レオナルドが声を荒げた。しかし完全に否定はできない。ざわつく乗組員たちをよそに、ハリソンは何かを考え込んでいる。
メイズは、周囲を気にする余裕が無かった。何故。確かに、この腕の中に、いたのに。まるで霞のように、消えてしまった。
――『でもほら、可能性の話として、いきなりこっちに来たわけだから。いきなり向こうに帰っちゃうってことも……』
いつかの言葉が、急に蘇る。思考を搔き消すように、乗組員の声が上がった。
「おい! 島があるぞ!」
その言葉に皆が目を凝らすと、霧の中にうっすらと島が見えた。それほど距離もないのに、気づかなかった。やけに存在感の曖昧な島だ。
不気味に感じながらも、コバルト号を島に寄せる。現状、ここがどこなのかの手掛かりは、この島にしかないだろう。
「ね、ねぇ……あれ、なんだろう」
呆然とした様子で、アントーニオが空中を指さした。そちらに目を向けると、島近くの海上に大きな枠が浮かんでいた。
枠、としか言いようがない。六角形のそれは、巨大な船でも潜り抜けられそうなほどの大きさをしていた。鏡のようにも見えるが、映している海は、こことは違うようだった。
明らかに異様な物質に皆が言葉を失っていると、島の方から低い男の声がした。
「あれは、窓だ」
急に割って入った声に、全員が一斉にそちらに視線を向けた。見ると、島の端に一人のガタイの良い男が立っており、メイズたちのいる船上を見上げながら、小銃を構えていた。
「お前たちは、何者だ。どうやってここへ来た」
厳しい視線からは、敵意と怯えが見て取れる。メイズが意識を研ぎ澄ますと、姿を見せている男以外にも、何人かの気配を感じた。突然現れた海賊に、警戒しているのだろう。
どうしたものか、と考えていると、マリーが身を乗り出して答えた。
「あたしたちは、『はぐれものの島』を探しているんだ。島の人間に危害を加えるつもりはないから、安心して。ここは、はぐれものの島なのかい?」
「何故、はぐれものの島を探している」
女性であるマリーの姿にも、言葉の内容にも、一切の警戒を解くことなく、島の男は再び問うた。
「あたしたちの仲間に、はぐれ者がいる。だけど、ここに来て、突然姿を消した。何か知ってるなら教えてほしい。降りて話をさせてくれないかい?」
その言葉に、男はようやく警戒以外の反応を見せた。背後を窺うようにした後、銃を下ろし、重々しく口を開いた。
「……わかった、話を聞こう」