私の祈りは届かず、二時間目が終わる頃には雨が降り始めた。まだ小雨だけど、昼休みになった今も止む気配はない。部活終わりまでに止むといいな。

「あーあ、上級生来るの早すぎだろ」

遊びに行っているはずのクラスの男子がぞろぞろ戻ってきた。どうやら雨でグラウンドが使えず、体育館に上級生が殺到したらしい。

「なあ、晴翔。何読んでるんだ?」

佐竹が晴翔に話しかける。普段は外に遊びに行ってるから、教室で何をしていいのかわからないんだろう。

佐竹には全然興味はないけど、晴翔と話しているとなると話は別だ。ここの席にいれば晴翔の会話は勝手に聞こえてくる。

「小説だよ。多分この作者知らないと思うけど」

そう言って晴翔は佐竹に読んでいる本を見せている。

「へえ、こういう人がいるんだ」

佐竹は小説に興味がないのか、自分で聞いておきながらリアクションが薄い。そんな態度するなら晴翔に質問するなよって思うけど、晴翔の声が聞けるだけ私はありがたい。

もっと晴翔に質問するんだ、佐竹。私は無言で佐竹に念を送る。

「晴翔ってずっと小説読んでるけどそんなに面白いのか?」

「ああ、面白いよ。読んでも飽きることがない」

「晴翔って文芸部だもんな。サッカー部の俺がサッカー好きなのと似たようなもんか」

晴翔って文芸部だったんだ。小説が好きなのも納得かも。

「晴翔も小説を書いたりするのか?」

「え?」

佐竹の質問に晴翔が動揺しているのが声を聞くだけでもわかる。

晴翔が書いた小説があるなら、私も読んでみたい。

「まあ、部活の中で書いたりはするけど」

「へえ、すげえな。どこかで読めたりしないの?」

いいぞ、佐竹。もっと聞け。

「一応、季節ごとに文芸部で部誌はつくっているよ。図書室にも置いてある」

恥ずかしそうに晴翔が答える。部活のことはあんまり言いたくないみたい。

「へえ、俺も今度読んでみよう」

佐竹が元気よく答えている。こいつ、本当に読む気があるのだろうか。私は晴翔の書いた小説、ちゃんと読むけどね。

何だか晴翔の顔が赤くなっている気がする。照れている晴翔もすごく可愛い。

「晴翔にも、理想のヒロインとかいるの?」

佐竹の質問に思わず私までギクっとする。晴翔の理想のヒロインってもしかして晴翔の好きなタイプってこと?

わかりんも恋の基本は相手の好きなタイプを知ることって言ってた。これは是非とも欲しい情報だ。

でもでも、私と全然違う女の子だったらどうしよう。うわー、すごく知りたいけど、聞くのが怖い。もう、とっても複雑な気分。

「うーん、どうだろう」
うわ、すごく答えにくそう。そりゃそうだよね、私だって好きな男子のタイプはって聞かれたらすぐにはうまく答えられないもん。

やっぱり真相は晴翔の書いた小説を読んでみるしかない。

「理菜、体調でも悪いの?さっきから全然弁当進んでないよ?もしかして食欲ないの?」

一華が真剣な顔で私を見ていた。ごめん、晴翔と佐竹の会話が気になって全然弁当を食べるどころじゃなかった、なんて本当のことを言えるわけもないし。

「気圧低いとちょっと調子悪くなっちゃうんだよね。気にしないで」

一華の心配する表情を見ると、申し訳に気持ちでいっぱいになる。
 
やっぱり一華は私のことを大切に思ってくれている。私と一華の友情も本物だ。

もしも好きな人が同じだったとしても。私たちの友情は壊れることはない。

「心配かけてごめんね」

きょとんとした顔で一華は私の方を見ていた。

この一言が言えて、少しだけ私の心が軽くなった。

そう思うと、何だか急にお腹が空いてきた。