席替えのことばかり心配している場合じゃない。その前に少林寺の新人戦がある。一日一日って本番は近づいている。

新しい演武の構成はほとんど決まった。あとはひたすら地道な練習を重ねて自分の技術を高めていく。ただひたすらに練習あるのみ。

「修也、動きが鈍くなっているぞ。少し頑張りすぎじゃないのか?」

「別にそんなことないですよ」

せっかく西園寺先輩が気にしてくれたのに、そんな態度はないでしょ。

「今日は遅刻したそうじゃないか。少林寺を頑張るのもいいが、基本の学校生活を守るのは当たり前のことだぞ」

修也は罰が悪そうに顔をかがめて「なんで知っているんだよ」とぼそっとつぶやいた。本人は周りに聞こえないように言っててもちゃんと聞こえてるんだからね。

「本番前に怪我でもしたら大変だぞ。時には休むのも大切だ」

「うるさいな、俺の邪魔しないでくださいよ」

修也の声が格技場に響く。みんな思わず二人の様子を見てる。

もう、修也ったらどうしちゃったのさ。

「修也、その言い方は西園寺先輩に失礼じゃない」

思わず私が二人の間に入ってしまう。

「理菜には関係ないだろ」

「修也。最近、私のこと避けてない?」

「別に、避けてねーよ」 

「やっぱり何か変だよ。この前の模擬試合の後から変わったよ」

「変わったのは理菜の方だろ」

「え?」

「前とは違う匂いがするし、髪も昔とは違うし」

私がモテを頑張ってること、全部修也に気づかれている。でも、それが修也と何か関係あるの?

「べ、別にそれくらい、いいじゃない」

「なんかムカつくんだよ、そういうの」

模擬試合の前は、おしゃればっかりして少林寺に集中してないって修也に怒られた。でも今は少林寺もすごく集中している。

おしゃれだって頑張っているけど、少林寺も集中できている。

「おしゃれしてるのに少林寺の調子がいいから、余計にムカつくんだよ」

修也は私のことちゃんと見ている。最近は全然話せてないのに、なぜかお互いのことを気にしてしまう。

思い返せば、小さい頃から私と修也はずっと意識し合ってた。

互いの点数を気にしてどっちかがいいともう一人が悪かった。私と修也はいつでもでこぼこだ。

「今日は俺もう帰ります」

「え、帰るの?」

部活の終了時間までまだ三十分も残っている。

「道場で練習する。ここで練習してたって俺の邪魔ばっかりだ」

部活のみんなが呆気にとらわれている間に修也はパパッと帰る準備をする。

「それじゃあ、お疲れさまでした」

それだけ言って修也は格技場を出て行った。

「ごめんなさい、私が余計なことを言ったから」

「理菜が謝ることじゃない。俺の言い方が悪かった。部員のことを気遣ってあげられないのは部長の責任だ」

西園寺先輩を見ていると一年分の重さを感じる。

「みんな、心配かけてすまなかったな。修也は今、少林寺に没頭しているだけだ。きっとまた戻ってくる。だから俺たちは俺たちなりに自分のできることをしよう。今日も残り時間まで頑張ろう」

そうだよね、修也のことばかり心配していられる場合じゃない。私は私のために少林寺をしているんだから。

深呼吸をする。よし、今日はあともうちょい頑張ろう。