目が覚めるともう朝の七時を過ぎていた。
部活もあるし、家に帰れば七時半くらい。そこからシャワー浴びて、ご飯を食べて。宿題もして……って高校生は忙しすぎる。
本を読む時間は全然ない。だからついつい夜更かしてして本を読んじゃうんだけど、そしたら今日はちょっと寝坊しちゃった。
「理菜、そんなに慌ててどうしたの?いつもと同じくらいじゃない?」
お母さんが不思議そうな声を出す。私っていつもこれくらいに起きてたんだっけ?
席替えをしてから、少し早めに家を出るようになった。ほんの一ヶ月くらいのことなのに、人って変われるんだね。
制服に着替え、持ち物を確認して、そしてお化粧だ。バレないように薄ーくしかしてないけど、これをするだけで気分が変わる。自信がつく。自分のこと可愛いって思えるようになる。
お化粧をしても、少林寺も手を抜いたりしてないよ。最近は練習もすごく調子がいい。動きがよくなっていくのが自分でもわかる。
少林寺でもっと強くなる。そしてもっと可愛くなる。うん、今日の私もバッチリ。私の可愛さに晴翔は気づいてくれるかな。
十一月。どんどん気温が下がっている。私も制服の上に薄いコートを着るようになった。いつの間にこんなに寒くなったんだろう。
冷たい風が体を撫でる。少しブルっとするけど、これも何だか気持ちがいい。
晴翔はまだあの小説を読んでいた。残りのページがかなり薄くなっている。
きっと明日には違う本になる。話しかける機会は今日しかない。
「おはよう、晴翔」
あれ、私、自然な感じで晴翔に挨拶できた?
「おはよう、岩田」
晴翔が本から視線を上げて私を見る。嫌そうな顔はしていない。
「あのさ、その本妹が持ってたんだ。晴翔が読んでいるの気になって私も今読んでいるの」
そう言ってリュックから同じ本を取り出した。
「この小説、面白いよな。どれくらいまで読んだ?」
「まだ半分くらい」
「お、ちょうど熱いところじゃん」
晴翔が楽しそうに笑顔になる。
「毎日ちょっとずつ読んでるんだけど、なかなか時間がなくて」
「岩田は部活大変そうだもんな。来月も大会あるんだろ?頑張れよ、俺も応援してるから」
ドキン。心臓が最高潮に高鳴る。
「……ありがとう」
あー、嬉しすぎて、照れちゃってうまく言えないよ。
「晴翔はさ、文芸部の活動どうなの?」
「次の部誌の準備中。今、小説を書き直しているところ。出るのは来月かな」
そう言って晴翔が少し俯く。隠れて読んでしまった罪悪感が湧きがったくらいのタイミングで担任の速水先生が入ってきた。
「じゃ、またね」
私はすぐに自分の席に着く。やばいやばいやばい、晴翔といっぱい話しちゃった。少しずつ、少しずつだけど晴翔との距離が近づいている。
あー、今、絶対顔赤い。私は顔を隠すようにリュックから教科書を探すふりをした。
ふうー、疲れた。土曜日の夕方、部活の練習が終わった。週に五日は結構ハードだ。
土曜日は朝から夕方まで。たまに卒業生がコーチとして練習に参加してくれる。今日の練習も来てくれて、みっちり練習できた。
修也もすごい練習を頑張っている。それが見ているだけでも伝わってくる。頑張りすぎてて、見てる私が心配になるくらい。
「修也、お疲れ。汗の量すごいよ」
「俺のことは理菜に関係ないだろ」
あれ。修也、何か怒ってる?
「今日は化粧、してないんだな」
修也にバレてた。本当、修也って私のどんな小さな変化にも気が付く。
「うん。今日は少林寺しかしない」
「へえー、少林寺以外もすることがあったら化粧するんだ」
何その嫌味ったらしい言い方。
「メイクは女子の間で流行っているんだよ。少林寺もちゃんとやってるんだから修也に文句言われる筋合いないよ」
「誰も文句なんか言ってねーよ」
その言い方が文句言っている言い方なんだよ。
「俺、この後も道場で練習するわ」
高校から少し離れたところに少林寺の道場がある。今日コーチで来てくれた卒業生がよく使っていて、ここの部員も自主練で使っていいことにしてくれた。でも修也って昨日の部活後も自主練してたはずだ。
「やめなよ、あんまり無理したら体がもたないよ」
「今のままじゃ西園寺先輩には勝てない。全国にも進めない。俺は全国に行きたい。そのためにはもっともっと練習しないといけないんだよ」
「でも、だからって無理をしたら……」
「俺は余計なことは考えたくない。頭の中を少林寺のことでいっぱいにしたいんだ」
そう言って修也は私から顔を背けるように行ってしまった。
何だか苦しそうにしている。修也の苦しんでいるところを見たくない。でも、どうしたらいいんだろう。
部活もあるし、家に帰れば七時半くらい。そこからシャワー浴びて、ご飯を食べて。宿題もして……って高校生は忙しすぎる。
本を読む時間は全然ない。だからついつい夜更かしてして本を読んじゃうんだけど、そしたら今日はちょっと寝坊しちゃった。
「理菜、そんなに慌ててどうしたの?いつもと同じくらいじゃない?」
お母さんが不思議そうな声を出す。私っていつもこれくらいに起きてたんだっけ?
席替えをしてから、少し早めに家を出るようになった。ほんの一ヶ月くらいのことなのに、人って変われるんだね。
制服に着替え、持ち物を確認して、そしてお化粧だ。バレないように薄ーくしかしてないけど、これをするだけで気分が変わる。自信がつく。自分のこと可愛いって思えるようになる。
お化粧をしても、少林寺も手を抜いたりしてないよ。最近は練習もすごく調子がいい。動きがよくなっていくのが自分でもわかる。
少林寺でもっと強くなる。そしてもっと可愛くなる。うん、今日の私もバッチリ。私の可愛さに晴翔は気づいてくれるかな。
十一月。どんどん気温が下がっている。私も制服の上に薄いコートを着るようになった。いつの間にこんなに寒くなったんだろう。
冷たい風が体を撫でる。少しブルっとするけど、これも何だか気持ちがいい。
晴翔はまだあの小説を読んでいた。残りのページがかなり薄くなっている。
きっと明日には違う本になる。話しかける機会は今日しかない。
「おはよう、晴翔」
あれ、私、自然な感じで晴翔に挨拶できた?
「おはよう、岩田」
晴翔が本から視線を上げて私を見る。嫌そうな顔はしていない。
「あのさ、その本妹が持ってたんだ。晴翔が読んでいるの気になって私も今読んでいるの」
そう言ってリュックから同じ本を取り出した。
「この小説、面白いよな。どれくらいまで読んだ?」
「まだ半分くらい」
「お、ちょうど熱いところじゃん」
晴翔が楽しそうに笑顔になる。
「毎日ちょっとずつ読んでるんだけど、なかなか時間がなくて」
「岩田は部活大変そうだもんな。来月も大会あるんだろ?頑張れよ、俺も応援してるから」
ドキン。心臓が最高潮に高鳴る。
「……ありがとう」
あー、嬉しすぎて、照れちゃってうまく言えないよ。
「晴翔はさ、文芸部の活動どうなの?」
「次の部誌の準備中。今、小説を書き直しているところ。出るのは来月かな」
そう言って晴翔が少し俯く。隠れて読んでしまった罪悪感が湧きがったくらいのタイミングで担任の速水先生が入ってきた。
「じゃ、またね」
私はすぐに自分の席に着く。やばいやばいやばい、晴翔といっぱい話しちゃった。少しずつ、少しずつだけど晴翔との距離が近づいている。
あー、今、絶対顔赤い。私は顔を隠すようにリュックから教科書を探すふりをした。
ふうー、疲れた。土曜日の夕方、部活の練習が終わった。週に五日は結構ハードだ。
土曜日は朝から夕方まで。たまに卒業生がコーチとして練習に参加してくれる。今日の練習も来てくれて、みっちり練習できた。
修也もすごい練習を頑張っている。それが見ているだけでも伝わってくる。頑張りすぎてて、見てる私が心配になるくらい。
「修也、お疲れ。汗の量すごいよ」
「俺のことは理菜に関係ないだろ」
あれ。修也、何か怒ってる?
「今日は化粧、してないんだな」
修也にバレてた。本当、修也って私のどんな小さな変化にも気が付く。
「うん。今日は少林寺しかしない」
「へえー、少林寺以外もすることがあったら化粧するんだ」
何その嫌味ったらしい言い方。
「メイクは女子の間で流行っているんだよ。少林寺もちゃんとやってるんだから修也に文句言われる筋合いないよ」
「誰も文句なんか言ってねーよ」
その言い方が文句言っている言い方なんだよ。
「俺、この後も道場で練習するわ」
高校から少し離れたところに少林寺の道場がある。今日コーチで来てくれた卒業生がよく使っていて、ここの部員も自主練で使っていいことにしてくれた。でも修也って昨日の部活後も自主練してたはずだ。
「やめなよ、あんまり無理したら体がもたないよ」
「今のままじゃ西園寺先輩には勝てない。全国にも進めない。俺は全国に行きたい。そのためにはもっともっと練習しないといけないんだよ」
「でも、だからって無理をしたら……」
「俺は余計なことは考えたくない。頭の中を少林寺のことでいっぱいにしたいんだ」
そう言って修也は私から顔を背けるように行ってしまった。
何だか苦しそうにしている。修也の苦しんでいるところを見たくない。でも、どうしたらいいんだろう。