「やばい、遅刻する」

学校から家まで自転車で二十分。なのに私は始業二十五分前に家を出る。

毎朝のことなのに私はいつも早く家を出ることができない。十分早く起きるのってすごく大変なことなんだよ。

自転車に乗り、猛スピードで進んでいく。

「よお、理菜。また遅刻か」

後ろから修也が来る。

「遅刻なんてしたことありません」

「せいぜい車に気をつけろよ」

それだけ言って修也は涼しい顔をして追い越していく。私よりも遅く家を出てるのに、進むスピードが私より早い。

「ふうー、間に合った」

額から汗を流れるのを感じながら、駐輪場に自転車を置く。私の薄いピンク色の自転車が駐輪場に咲く一輪の花のようにとても目立つ。

私を追い越した後、修也の姿を駐輪場で見かけたことは一度もない。あいつ、どんだけ早く自転車漕げるのよ。
「おはよう」

私が遅刻ギリギリに教室に入る。クラスのみんなにとってもお馴染みの光景だ。

入学して半年近く経つとクラスのメンバーのキャラクターがはっきりしてくる。毎朝こんな感じなのも相まって私はおちょっこちょいな女子だと思われている節がある。

自分で言うのもアレだが、これでも私は少林寺では全国大会に出場する強者だ。ギャップ萌えとは言うけど、おっちょこちょいと少林寺のギャップって私が思っているギャップとちょっと違うような気がする。

始業のベルが鳴る。いつも遅い担任の速水先生がすぐにやってきた。

そうだ、今日は席替えの日だ。慌ててたからすっかり忘れてた。

席替えのタイミングは担任ごとでバラバラで速水先生は三ヶ月に一回。だからこの席替えはめちゃくちゃ重要。

「それじゃあ、席替えをするぞ」

座っている列ごとにくじを引いていくのが速水流の席替えだ。列の先頭が代表をして順番を決める。

全部で六列ある中で、私の列は引くのが三番目だった。晴翔と一華の列は私よりも後にくじを引くことに決まった。二人が引く前に私の周りが埋まっちゃったらどうしよう。

晴翔と近くなりたい。そう思いながらくじを引く。ドキドキしながら私は自分のくじを見ないで席に戻る。

黒板にはくじの番号が書かれた座席表の紙が貼ってある。くじを開いた人は順番にそこに自分の名前を書いていく。

「理菜の席どこだった?」

一華が私の近くにくる。私より後に引いたのに、もうくじは開いてある。

「私、これから開く」

思い切って私はくじを開いた。窓から三列目の後ろから二番目だ。

くじの番号を一華に見せる。すると一華が「え、マジで!」と大きな声を出した。

「私三列目の後ろから三番目。理菜の一つ前だ」

「本当に?やったー」

二人でもう一度、黒板の座席表を確認する。間違いない。私と一華は前後の席だ。

いえーいと二人でハイタッチして、私たちは黒板に名前を書きに行く。

晴翔はどこに移動するんだろう。必死に探すけど、まだ晴翔の名前は書かれてない。

私が席に戻ると、ちょうど晴翔が立ち上がるところだった。

ドキドキしながら晴翔の姿を目で追いかける。私より前側の席だと嬉しいな。

お願い、私の見やすいところに座って!心の中で念を送る。

晴翔が黒板に自分の名前を書く。え、嘘でしょ。私は自分の目を疑いそうになる。

目をこすってもう一度黒板を見る。やっぱり見間違いじゃなかった。

晴翔の席は一華の隣、私の右斜め前だった。

どうしよう、思ったよりもすごく近い。

私はリュックを肩にかけると、新しい自分の席に向かって移動する。

「やったね、理菜。しばらくはこの席だよ」

私の前に座った一華がニコニコしながら声をかけてくる。私も一華に笑顔を向けるけど、心の中はそれどころじゃない。

私の斜め前に晴翔がいる。待って、自転車漕いだ時の汗とか目立ってないかな。髪型とか大丈夫かな。

急にいろんなことが心配になってくる。晴翔に変な人だと思われたくない。

席替えした直後からこんなんじゃ、私の心臓が持たないよー。

「じゃあ、早速英語の授業を始めるぞ」

まだ全然準備ができてないんですけど。そんな私の心の声が聞こえるわけもなく、速水先生の授業が始まった。