天気は晴れ。週の初めから絶好調のスタートだ。昨日買った化粧品を今日から使っちゃうもんね。それだけでワクワクしちゃう。
 

念入りにお化粧をして、うっすらとだけど別人のようになっていく。本当に自分が小説のヒロインになったみたい。今の自分、今まで最高に可愛い気がする。

「おはよう。一華」

一華がニコッと笑って私を見ている。昨日買った化粧品を使っているのがすぐにわかったみたい。

晴翔はもう学校についていつものように小説を読んでいる。

おはようって晴翔にも言いたい。だけど小説の邪魔にならないかなとか考えちゃって、声をかけれないよ。

いきなり勇気を持つのって難しい。まずは一歩ずつ進んでいかないと。

せっかくおしゃれしたんだから少しでも晴翔に私のことを見てほしい。いつも後ろから晴翔のことを眺めてばかり。それじゃあ晴翔は私のこと見てくれない。

そう思って私は立ち上がって他の女子に挨拶をする。みんなちょっと驚いてたけど笑顔で返してくれた。こうやって動けば不自然じゃなく晴翔の前に行ける。

思い切って晴翔の方を向く。もしかして小説みたいに目が合うかもって思ったけど、晴翔の視線は小説に向かって真っ直ぐだった。

もう小説ばっかり読んでないで私の方を見てよ!

晴翔が読んでいる小説が目に入る。今の席だと晴翔が何を読んでいるかもわからない。

本の背表紙をさりげなく覗く。あれ、この本どっかで見たことあるな。

「あっ」

思わず声を出してしまった。瀬菜が前に読んでいた本だ。家の本棚に置いてあるはず。

「何かあった、岩田?」

晴翔が不思議そうな顔をしてこっちを見てる。

「あのさ、その本、どこかで見たことあるなって思って」

「あんまり有名な本じゃないけど」

魔女に選ばれた少女が世界を救う話だっけ。前の晴翔とお揃いの本もファンタジーの本だ。晴翔ってファンタジー系が好きなのかな。

「私も、小説読むの好きだから」

「前にも岩田は本が好きって言ってたもんな」

あの時のこと、晴翔も覚えてくれてたんだ。それだけで体温がどんどん上昇していく気がする。

みんながだんだんと自分の席に戻っていく。そろそろ私も戻らないと。

まだ晴翔に言ってないことがある。今ならきっと言える気がする。

「あのさ、晴翔。おはよう」

私は自分史上最高の笑顔を晴翔に向ける。

「おはよう、岩田」

少し戸惑いながら、晴翔が笑顔を向けてくれた。

私だけに見せた笑顔。晴翔がすっごく可愛く見えた。