今日は朝から雨。昨日の夜から準備はしてたけど何だか気分が下がっちゃう。 

昼休みにまた遊びに行けなかった佐竹が晴翔のところに来た。

「晴翔の小説、俺も読んだぜ」

佐竹、ちゃんと読んだんだ。晴翔も思わずびっくりしてるよ。

「嬉しいけど、知っている人に読まれるのって何だか恥ずかしいな」

ごめん、晴翔。黙っているけど私も晴翔の小説読んじゃったんだよね。今でも家でたまに読んでる。

「小説を書けるなんてすごいじゃんよ」

「俺なんてまだまだだよ。ただ文章を書いているだけで小説なんて呼べるレベルじゃない」

晴翔の部活は文芸部。私が少林寺を一生懸命練習するように晴翔は小説を書いている。

私も晴翔のことを応援したいけど、晴翔の書く小説に私とは正反対のヒロインが出てくるとモヤモヤしちゃうよ。

「ねえ、小説の裏話とか少し教えてくれよ」

心臓がドキンと飛び跳ねる。それって晴翔が自分の書いたヒロインへの愛を語るってこと?さすがに今の私にこれは無理だ。

「ごめん、ちょっと用事思い出しちゃた」

私はお弁当をそのままに慌てて教室を飛び出す。

「理菜、待ってよ」

一華が私のことを追いかけてくれた。

「突然、飛び出さないでよ。びっくりするじゃん」

「ごめん。でも……」

「気持ちはわかるよ。好きな人の話でも聞きたくないことはあるよね」

「やっぱり、好きな人のタイプと違ったら難しいのかな」

「まあ、簡単にはいかないよね。でも、だからって可能性がゼロってわけじゃない」

どういうこと?

「タイプじゃなくても、ふとした瞬間にいいなって思うことあるじゃん」

確かに。晴翔のことも私のタイプだから好きになったってわけじゃない。初めて話しかけられて、好きな本の話で意気投合して、それからいつの間にか気になって好きになってた。

じゃあ、晴翔も私のことをいいなって思う瞬間があったらチャンスはあるってこと?

「でも、そんなのいつくるかわからないよ」

「理菜、恋は待ってるだけじゃ始まらないよ。自分から積極的に動かなきゃ」
 
一華は私と修也がいる時に話しかけたり、忘れ物を修也に貸したり行動をしていた。でもそれって簡単なことじゃない。

「理菜、今週の日曜日空いてる?」

「予定は何もないけど……」

「じゃあ決まり。私とおしゃれを勉強するよ。街に行ってメイクとか服とか見てくるよ。十三時に白い石のとこで待ち合わせね」

「ちょっと白い石って何?」

「待ち合わせの有名なスポット。あとでメッセージで送っとくから」
 
一華が可愛くウインクする。一華と一緒なら恋愛もうまくいきそうな気がしてくる。

「こうなったらおしゃれして可愛い最強ヒロインを目指しちゃうからね」

私と一華は雨の音にも負けないくらい、廊下で笑い合った。