「おはよう」

月曜日の朝、そろっと教室のドアを開けて入る。まだ大会の疲れが体に残っている。

だけど今日体が重いのはそれだけではない。晴翔と顔を合わせるのがなんだか気まずい。

大好きな晴翔に私が少林寺をしているところを見られてしまった。見られたってことは私の叫び声とかも聞かれたってことだよね。めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。

「おはよう、理菜」

一華が先に学校に着いて席に座っていた。何だかニヤニヤしている。そして隣にはもう晴翔がいる。

ヘアオイルをつけ始めて一ヶ月は経っている。そろそろ私の髪も艶々のトゥルントゥルンになっていてもいい頃だ。

私が席に着くと、晴翔が私の方を振り返ってきた。いつもなら小説を読んだままなのに。咄嗟の仕草に思わずドキッとする。

「おはよう、岩田」

「おはよう、晴翔」

晴翔から先に挨拶されたのがすごい嬉しいのに、それを素直に返せず、ぶっきらぼうに答えてしまう。これじゃあ、また印象が悪くなっちゃうよ。

「あのさ、岩田」

晴翔が気まずそうなもじもじとした顔で私を見てくる。その表情がすごく可愛い。

「土曜日、俺さ、部活で北光学院に行ってたんだよね」

「あれ、そうだったんだ」思わず知らないふりをしちゃう。

「少林寺をしてる岩田、すごくカッコよかった。いつもの岩田と別人みたいだった」

晴翔から見たら私もカッコよく見えるんだ。でもね、晴翔。これからもっとかっこよくなるよ。

「やっぱ勝手に見られるの嫌だったよな」

「そんなことないよ!私も晴翔が見てくれたの嬉しかった」

うわ、何言ってるの私。つい晴翔からかっこいいって言われて舞い上がっちゃった。

「黙っているのも悪いかと思ったんだ。ちゃんと言えてよかった」

そう言って晴翔はそそくさと前を向いて、また小説を読み始めた。

私も、晴翔の小説を勝手に読んでいるんだよな。そのこと、晴翔が知ったら嫌な気持ちになるだろうか。何だか自分だけ隠し事をしているみたいでモヤモヤする。

でも晴翔は部活の集まりが北光学院であったからって理由がある。けど私が文芸部の部誌を読む理由なんてないよね。晴翔がどんなヒロインを書くのか気になったなんて言えないし。

いつかは言わないと。そう心に決めて私は晴翔の方をもう一度見た。やっぱり、私は晴翔のことが好きだ。この気持ちに嘘はつけない。

私も頑張らないと。そう強く思った。