「おはよう」

雨の中自転車で帰ったせいで、案の定風邪を引いてしまった。熱はないけど、体の調子が悪い。鼻もむずむずする。

昨日の雨が嘘のように今日は空が晴れている。昨日のことが全部、嘘になってしまえばいいのに。

「もうだから雨の中、自転車で帰るなって言ってたのに」

「だって、あの時は大丈夫な気がしたんだもん」

よしよしと一華が私の頭を撫でる。一華に撫でられると少し落ち着いてくる。

「具合でも悪いのか?」

突然の声に私はビクッとする。晴翔が後ろを振り返って私のことを見ている。もしかして、私のこと心配してくれてるの?

「うん、昨日ちょっと色々あってね」

「一人で帰りたいって、雨の中自転車で帰ったんだよ」

もう一華、余計なこと言わないでよ。

「そういうとき、たまにあるよな」

晴翔の言葉に胸がドキンとする。こんな弱っている時に優しい言葉をかけないでよ。

晴翔が私のことを受け止めてくれるような錯覚をしてしまう。でも、私は晴翔の理想の女の子を知っている。

家に帰って晴翔の書いた小説をもう一回読んだ。晴翔が小説で書く女の子は明るくて、リーダーシップがある。それにオシャレでみんなから好かれている。

ちなみにもう一人の一年生が書いた小説も読んだよ。魔法少女の物語。物語は面白かったけど、アニメで見たことがあるような平凡なストーリーだ。それに文章も読みにくい。普通の女の子が変身して強くなるってところは面白かったけどね。

晴翔が私のこと興味ないってわかってる。だから晴翔の優しい言葉が嬉しいけど、どこか私の心の中でトゲのように突き刺さる。

「試合、来週でしょ?あまり無理しないで休める時は休むんだよ」

はい、わかってますよ。一華の言葉に私は素直に頷くことしかできない。

天気が良すぎるすぎる空を見ながら、私は小さくくしゃみをした。