帰りの会が終わる。相変わらず雨が降り止む様子はない。
今日ももちろん部活だ。けどその前に図書室に向かう。
晴翔が書いた小説があるなんて気になりすぎる。これじゃあ部活に集中なんてできないよ。
ドキドキしながら図書室の中で文芸部の部誌を探す。晴翔が書いた小説の中に理想のヒロインがいる。
文芸部の部誌が置いてある棚が設置されていた。ご自由にお取りくださいと書かれて、同じ号数が十冊くらいずつ置いてある。
今年の春の号はまだ一年生は載っていない。となると、晴翔の小説が載っているのは今年の夏の号か。
部誌を開いてみて、私の誤算があったことがわかった。部誌に載せる時の作者名がペンネームになっているのだ。これじゃあ、どれが
晴翔の書いた小説かわからないよ。
春の号と見比べて、新しいペンネームが二人いた。きっとこのどっちかが晴翔だ。
一つ目の小説のあらすじと冒頭を読む。普通の女の子が魔法少女に変身して悪の組織と戦うストーリーだ。なんか晴翔らしくないし、それに文章もあまり上手ではない。
それじゃあ、もう一つの方かな。恐る恐るページをめくる。
うわ、何これ。読んですぐに物語に惹き込まれた。すごく文章が上手い。きっとこれが晴翔の書いた小説だ。
だけど読めば読むほど、だんだんと気持ちが沈んでいく。
ヒロインはギャルで生徒会長。そんな最強女子がみんなの悩みをどんどん解決していくストーリーだ。
いかにもヒロインって感じ。まるで少女漫画に出てきそうだ。
ドジで、格闘技をして、おしゃれじゃない私とはまるで正反対。
晴翔ってこういう女子がタイプなんだ。何だかすごくショック。告ってもいないのに振られた気分。
こんな気持ちになるなら、晴翔の書いた小説を読まなきゃよかった。
図書室に佐竹達が入ってくる。私は慌てて手に持っていた部誌をスカートのポケットの中にねじ込んだ。はみ出ている部分は手で押さえて隠す。
私は佐竹から避けるように図書室を抜け出した。
図書室を出ると、ふうっと大きくため息を一つついた。
晴翔の好きなタイプが私と正反対だったなんて。
気分がどーんと落ちてしまう。きっとこれは低気圧のせいだ。
慌てて格技場に向かう。これなら着替えてもギリギリ間に合う。
「模擬試合まで残り一週間。気合は入れていくけど、怪我とかに注意するんだぞ」
西園寺先輩の掛け声で部活が始まる。そうだ、模擬試合まで時間があまりない。公式戦ではないけど、大切な試合だ。なのに練習中も晴翔のことが頭から離れない。晴翔はヒロインみたいな女の子が好き。少林寺拳法をやっている私のことなんかきっと好きになってくれない。
晴翔のことは好きだけど、叶わない恋を続けるのはどうなんだろう。もう晴翔との恋は諦めた方がいいのかな。
色々考えて、頑張っているのに全部うまくいかない。
「おい、理菜。今日の部活、動きにキレがなかったぞ」
着替え終わった後に、修也が私に文句を言ってきた。修也に言われなくてもそんなのわかってるーつーの。
「模擬試合が近いんだぞ?わかってるのか?」
「なんか気圧が低くいから今日は調子悪くて」
「なんでも他のせいにするなよ。調子が悪いのは理菜の問題だろ」
カチンときた。何よ、何でもわかったような口を聞いて。私の何がわかるのよ。
「修也にそんなこと言われる筋合いないんだけど」
「部活の理菜を見てたら、全然やる気を感じられない。全道で一位になったからって少林寺のこと舐めてるんじゃないのか?」
修也の一言が思わずグサっと刺さる。確かに全道で一位になって浮かれていたところはある。でも、今みたいな言い方しなくてもよくない?
「それに最近、おしゃれなんかしちゃってさ。全然少林寺に集中してないだろ」
「は?」
おしゃれと少林寺は関係ないのに一緒にしないでよ!
晴翔に好きになってもらいたいから、髪を整えたり、軽いお化粧とかをしてるの。
ってか、何で修也が私がおしゃれに目覚めたこと知っているのよ!
もう頭の中がパニック状態になる。修也の一言一言が全部むかつく。
「修也の言っていること、意味がわからない。少林寺とおしゃれは関係ないし」
「だって今少林寺に集中できてないだろ」
「何でそれを修也が決めつけるのよ。これは私の話でしょ」
「俺は理菜のことを心配してるんだよ」
「関係ないことをごちゃごちゃ混ぜたりしないでよ」
「このままだったら模擬試合でいい結果出せないぞ」
修也の一言で格技場が静かになる。
私だってそんなことわかっている。
だけどそれはおしゃれで浮かれてとかじゃない。うまくいってないけど、関係ないことを理由にされるのは嫌だ。
「私だってそれはわかってるよ」
「だったらおしゃれとかしないで、もっと部活に集中して……」
少林寺で勝つためにはおしゃれをしたらいけないの?恋をしたらいけないの?恋を諦めてまで私は少林寺で勝ちたいのかな?
少林寺は楽しいけど、今の自分に満足している自分もいる。
そっか、だから最近、うまくいかないんだ。
「私は修也みたいに少林寺で日本一を目指しているわけじゃない。今の自分にも満足している。それじゃあいけないの?」
「ただ負けることから逃げているだけなんじゃないのか?」
修也の言葉が空っぽの私の心の中でものすごく反響する。
晴翔や恋のことを言い訳にして、少林寺から逃げているのかもしれない。
全国大会で味わった初めての敗北感。もうあんなもの味わいたくない。本気になればなるほど、負けるのが怖くなる。
だから、本気で少林寺をするのが怖いんだ。それなら、今のままでもう十分だ。
「そんなの修也に関係ないでしょ。私のことは放っておいてよ」
私のすごい剣幕に思わず修也も黙る。
「二人とも、そこまでだ」
西園寺先輩の言葉に私と修也はハッとする。そうだ、ここは格技場。気がつけば他の部員も私と修也の言い合いをずっと眺めていた。
「理菜のモチベーションが下がっているのは俺もわかっていた。だが修也も少し言い過ぎだぞ」
少林寺に集中できてないの、西園寺先輩もわかっていたんだ。
「今、理菜は必死に悩んでいる。それを見守るのも同じ部員の仲間のつとめだと思わないか?」
「はい、わかりました……」
西園寺先輩に言われたら修也も黙っているしかないよね。
「理菜も大変な時かもしれない。だけどそれを乗り越えられるのは理菜だけだ。何かあれば他の部員を頼ってほしい」
静まり返った格技場に雨がぶつかる音だけが響く。こんな天気は帰るのも嫌になる。
「それじゃあ、お先失礼します。お疲れさまです」
リュックを背負い、私は格技場を後にする。後ろから修也が私を呼ぶ声が聞こえてきたけど、そんなの無視だ。
早足で玄関に向かう。雨は昼よりも激しくなっていた。
「あ、理菜」
一華が玄関にやってきた。後ろにはぞろぞろと女子バスケ部が見える。
「雨、すごく降ってるね」
「これじゃあ自転車乗れないから、バスに乗ろうかと思ってさ」
そうか、バスという手があるか。普段バスに乗らないから考えてもいなかった。
「やっと理菜に追いついた」
修也が私のことを追いかけてきた。今、修也の顔なんて見たくないのに。
「急に帰るなよ、心配するだろ」
「何で修也が私のこと心配するのよ」
「どうせ傘、持ってきてないだろ」
ぎく。修也は私のことが全部お見通しだ。何でも見透かされて余計に嫌になる。
「俺の傘大きいから、一緒に中に入って帰るぞ」
え?ちょっと待って。私と修也が相合傘で帰るってこと?
それカップルの男女がやる楽しいやつじゃん。何で私が修也と相合傘しないといけないのよ。
「嫌だよ、そんなの」
「何だよ、昔はよく一緒の傘に入って道場から帰ってただろ」
「小学校の時の話でしょ。高校生にもなって一緒に相合傘するわけないでしょ」
修也が少し寂しそうな顔でこっちを見る。
私と修也の言い合いを一華が黙って見ていた。何だかこっちまで気まずくなる。
「どうせ、さっきのことでムキになっているだけだろ?」
「はあ?」
突然何を言い出すんだ、こいつは。
「さっきのことって二人に何かあったの?」
一華がきょとんとした顔でこっちを見る。
「一華ちゃん、聞いてよ。理菜が全然少林寺にやる気ないから注意したんだ。そしたら理菜が怒っちゃって」
修也のばか。何でそんな話、一華にするのよ。もう本当に嫌だ。
「もういい。私、自転車で帰るから」
「おい、雨降ってるんだぞ。自転車で帰ったら風邪引くだろ」
「今日は一人で帰りたい気分なの」
修也に子供扱いされるのはうんざりだ。何でも私のことをわかったような気になって得意げに説教したり話したり。
「自転車で帰るって決めたから。じゃあね」
一華に向かって軽く手を振ると、後ろを見ないでズンズンと進んだ。
雨だから駐輪所にはほとんど人がいなかった。自転車も大量に残っている。
自慢のピンクの自転車はすぐに見つかった。早く帰らないと、本当に風邪を引いてしまいそうだ。
真っ暗な道を私の自転車のライトが照らし出す。目では見えない雨の滴もライトに照らされて浮かび上がる。
少しでも早く家に着きたくて、必死に自転車を漕いだ。
うわ、風も吹いてきた。強烈な向かい風。これじゃあ前に進むだけでも大変だ。
何もかもがうまくいかない。必死に前に進もうとしているのにいろんなものが邪魔をしてくる。
もう、一人で何でこんなことしているんだろう。自分で自分が嫌になっちゃう。
それでも自転車を漕ぐしかない。私はペダルを踏む足に思い切り力を入れた。
今日ももちろん部活だ。けどその前に図書室に向かう。
晴翔が書いた小説があるなんて気になりすぎる。これじゃあ部活に集中なんてできないよ。
ドキドキしながら図書室の中で文芸部の部誌を探す。晴翔が書いた小説の中に理想のヒロインがいる。
文芸部の部誌が置いてある棚が設置されていた。ご自由にお取りくださいと書かれて、同じ号数が十冊くらいずつ置いてある。
今年の春の号はまだ一年生は載っていない。となると、晴翔の小説が載っているのは今年の夏の号か。
部誌を開いてみて、私の誤算があったことがわかった。部誌に載せる時の作者名がペンネームになっているのだ。これじゃあ、どれが
晴翔の書いた小説かわからないよ。
春の号と見比べて、新しいペンネームが二人いた。きっとこのどっちかが晴翔だ。
一つ目の小説のあらすじと冒頭を読む。普通の女の子が魔法少女に変身して悪の組織と戦うストーリーだ。なんか晴翔らしくないし、それに文章もあまり上手ではない。
それじゃあ、もう一つの方かな。恐る恐るページをめくる。
うわ、何これ。読んですぐに物語に惹き込まれた。すごく文章が上手い。きっとこれが晴翔の書いた小説だ。
だけど読めば読むほど、だんだんと気持ちが沈んでいく。
ヒロインはギャルで生徒会長。そんな最強女子がみんなの悩みをどんどん解決していくストーリーだ。
いかにもヒロインって感じ。まるで少女漫画に出てきそうだ。
ドジで、格闘技をして、おしゃれじゃない私とはまるで正反対。
晴翔ってこういう女子がタイプなんだ。何だかすごくショック。告ってもいないのに振られた気分。
こんな気持ちになるなら、晴翔の書いた小説を読まなきゃよかった。
図書室に佐竹達が入ってくる。私は慌てて手に持っていた部誌をスカートのポケットの中にねじ込んだ。はみ出ている部分は手で押さえて隠す。
私は佐竹から避けるように図書室を抜け出した。
図書室を出ると、ふうっと大きくため息を一つついた。
晴翔の好きなタイプが私と正反対だったなんて。
気分がどーんと落ちてしまう。きっとこれは低気圧のせいだ。
慌てて格技場に向かう。これなら着替えてもギリギリ間に合う。
「模擬試合まで残り一週間。気合は入れていくけど、怪我とかに注意するんだぞ」
西園寺先輩の掛け声で部活が始まる。そうだ、模擬試合まで時間があまりない。公式戦ではないけど、大切な試合だ。なのに練習中も晴翔のことが頭から離れない。晴翔はヒロインみたいな女の子が好き。少林寺拳法をやっている私のことなんかきっと好きになってくれない。
晴翔のことは好きだけど、叶わない恋を続けるのはどうなんだろう。もう晴翔との恋は諦めた方がいいのかな。
色々考えて、頑張っているのに全部うまくいかない。
「おい、理菜。今日の部活、動きにキレがなかったぞ」
着替え終わった後に、修也が私に文句を言ってきた。修也に言われなくてもそんなのわかってるーつーの。
「模擬試合が近いんだぞ?わかってるのか?」
「なんか気圧が低くいから今日は調子悪くて」
「なんでも他のせいにするなよ。調子が悪いのは理菜の問題だろ」
カチンときた。何よ、何でもわかったような口を聞いて。私の何がわかるのよ。
「修也にそんなこと言われる筋合いないんだけど」
「部活の理菜を見てたら、全然やる気を感じられない。全道で一位になったからって少林寺のこと舐めてるんじゃないのか?」
修也の一言が思わずグサっと刺さる。確かに全道で一位になって浮かれていたところはある。でも、今みたいな言い方しなくてもよくない?
「それに最近、おしゃれなんかしちゃってさ。全然少林寺に集中してないだろ」
「は?」
おしゃれと少林寺は関係ないのに一緒にしないでよ!
晴翔に好きになってもらいたいから、髪を整えたり、軽いお化粧とかをしてるの。
ってか、何で修也が私がおしゃれに目覚めたこと知っているのよ!
もう頭の中がパニック状態になる。修也の一言一言が全部むかつく。
「修也の言っていること、意味がわからない。少林寺とおしゃれは関係ないし」
「だって今少林寺に集中できてないだろ」
「何でそれを修也が決めつけるのよ。これは私の話でしょ」
「俺は理菜のことを心配してるんだよ」
「関係ないことをごちゃごちゃ混ぜたりしないでよ」
「このままだったら模擬試合でいい結果出せないぞ」
修也の一言で格技場が静かになる。
私だってそんなことわかっている。
だけどそれはおしゃれで浮かれてとかじゃない。うまくいってないけど、関係ないことを理由にされるのは嫌だ。
「私だってそれはわかってるよ」
「だったらおしゃれとかしないで、もっと部活に集中して……」
少林寺で勝つためにはおしゃれをしたらいけないの?恋をしたらいけないの?恋を諦めてまで私は少林寺で勝ちたいのかな?
少林寺は楽しいけど、今の自分に満足している自分もいる。
そっか、だから最近、うまくいかないんだ。
「私は修也みたいに少林寺で日本一を目指しているわけじゃない。今の自分にも満足している。それじゃあいけないの?」
「ただ負けることから逃げているだけなんじゃないのか?」
修也の言葉が空っぽの私の心の中でものすごく反響する。
晴翔や恋のことを言い訳にして、少林寺から逃げているのかもしれない。
全国大会で味わった初めての敗北感。もうあんなもの味わいたくない。本気になればなるほど、負けるのが怖くなる。
だから、本気で少林寺をするのが怖いんだ。それなら、今のままでもう十分だ。
「そんなの修也に関係ないでしょ。私のことは放っておいてよ」
私のすごい剣幕に思わず修也も黙る。
「二人とも、そこまでだ」
西園寺先輩の言葉に私と修也はハッとする。そうだ、ここは格技場。気がつけば他の部員も私と修也の言い合いをずっと眺めていた。
「理菜のモチベーションが下がっているのは俺もわかっていた。だが修也も少し言い過ぎだぞ」
少林寺に集中できてないの、西園寺先輩もわかっていたんだ。
「今、理菜は必死に悩んでいる。それを見守るのも同じ部員の仲間のつとめだと思わないか?」
「はい、わかりました……」
西園寺先輩に言われたら修也も黙っているしかないよね。
「理菜も大変な時かもしれない。だけどそれを乗り越えられるのは理菜だけだ。何かあれば他の部員を頼ってほしい」
静まり返った格技場に雨がぶつかる音だけが響く。こんな天気は帰るのも嫌になる。
「それじゃあ、お先失礼します。お疲れさまです」
リュックを背負い、私は格技場を後にする。後ろから修也が私を呼ぶ声が聞こえてきたけど、そんなの無視だ。
早足で玄関に向かう。雨は昼よりも激しくなっていた。
「あ、理菜」
一華が玄関にやってきた。後ろにはぞろぞろと女子バスケ部が見える。
「雨、すごく降ってるね」
「これじゃあ自転車乗れないから、バスに乗ろうかと思ってさ」
そうか、バスという手があるか。普段バスに乗らないから考えてもいなかった。
「やっと理菜に追いついた」
修也が私のことを追いかけてきた。今、修也の顔なんて見たくないのに。
「急に帰るなよ、心配するだろ」
「何で修也が私のこと心配するのよ」
「どうせ傘、持ってきてないだろ」
ぎく。修也は私のことが全部お見通しだ。何でも見透かされて余計に嫌になる。
「俺の傘大きいから、一緒に中に入って帰るぞ」
え?ちょっと待って。私と修也が相合傘で帰るってこと?
それカップルの男女がやる楽しいやつじゃん。何で私が修也と相合傘しないといけないのよ。
「嫌だよ、そんなの」
「何だよ、昔はよく一緒の傘に入って道場から帰ってただろ」
「小学校の時の話でしょ。高校生にもなって一緒に相合傘するわけないでしょ」
修也が少し寂しそうな顔でこっちを見る。
私と修也の言い合いを一華が黙って見ていた。何だかこっちまで気まずくなる。
「どうせ、さっきのことでムキになっているだけだろ?」
「はあ?」
突然何を言い出すんだ、こいつは。
「さっきのことって二人に何かあったの?」
一華がきょとんとした顔でこっちを見る。
「一華ちゃん、聞いてよ。理菜が全然少林寺にやる気ないから注意したんだ。そしたら理菜が怒っちゃって」
修也のばか。何でそんな話、一華にするのよ。もう本当に嫌だ。
「もういい。私、自転車で帰るから」
「おい、雨降ってるんだぞ。自転車で帰ったら風邪引くだろ」
「今日は一人で帰りたい気分なの」
修也に子供扱いされるのはうんざりだ。何でも私のことをわかったような気になって得意げに説教したり話したり。
「自転車で帰るって決めたから。じゃあね」
一華に向かって軽く手を振ると、後ろを見ないでズンズンと進んだ。
雨だから駐輪所にはほとんど人がいなかった。自転車も大量に残っている。
自慢のピンクの自転車はすぐに見つかった。早く帰らないと、本当に風邪を引いてしまいそうだ。
真っ暗な道を私の自転車のライトが照らし出す。目では見えない雨の滴もライトに照らされて浮かび上がる。
少しでも早く家に着きたくて、必死に自転車を漕いだ。
うわ、風も吹いてきた。強烈な向かい風。これじゃあ前に進むだけでも大変だ。
何もかもがうまくいかない。必死に前に進もうとしているのにいろんなものが邪魔をしてくる。
もう、一人で何でこんなことしているんだろう。自分で自分が嫌になっちゃう。
それでも自転車を漕ぐしかない。私はペダルを踏む足に思い切り力を入れた。