た、助かった……。




もし、月神くんが来るのがあと数秒遅かったら、私は今頃眷属になっていたかもしれないと思うと、まさに危機一髪のところで助けてもらったんだなあ。



「手を出すって……、悪意のある言い方しないでくれる?」



黒髪の男の子がムッとして、月神くんを睨み付けた。



「俺はただ、3日ぶりの食事にありつこうとしただけなのに」



「だとしても、その相手ぐらいちゃんと選べよ。紅林(くればやし)



月神くんに『紅林』と呼ばれた黒髪の男の子は、売られた喧嘩を買うように、「は?」と眉をひそめて、「それ、どういうこと?」と聞き返した。




「お前が血を吸おうとした相手は、人間じゃない。透明人間だ」



嘘……。



まだ『花嫁になる』ってOKしてないのに、私の秘密を守ってくれた……?




「えっ? 透明人間?」



紅林くんが、ハッと息を呑んで目を丸くする。



「ああ。なんならこいつ、俺の彼女なんだけど」



「はっ?」



「えっ?」



偶然、私と紅林くんの声が綺麗にハモった。



「君、月神の彼女だったの?」



きょとんとした紅林くんが、興味ありげに私にたずねてくる。



「あ、いや、えっと……」



待って、彼女⁉



私、いつ月神くんの彼女になったっけ……?