週末が近づくにつれ、ユウキとミサキの興奮は高まっていった。二人は放課後、こっそりと次の冒険について話し合っていた。
「次はどんな本の世界に行こうか?」ユウキが尋ねた。
ミサキは少し考えてから答えた。「ねえ、今度は歴史の本はどうかな?私、歴史の授業で古代エジプトのことを習って、すごく興味を持ったんだ」
ユウキの目が輝いた。「それいいと思うよ!ピラミッドや王様の墓を探検できるかも!」
土曜日の午後、二人は待ち合わせ場所で落ち合い、例の林へと向かった。いつものように、古びた図書館が二人を出迎えた。
中に入ると、司書が穏やかな笑顔で二人を迎えてくれた。「やあ、お待ちしていたよ。今日はどんな冒険がしたいかな?」
ミサキが少し緊張した様子で答えた。「あの...古代エジプトの本はありますか?」
司書はにっこりと笑い、本棚から一冊の厚い本を取り出した。「『ファラオの秘宝』...これはきっと君たちの望む冒険になるはずだよ」

しかし、本を手渡す前に、司書は急に真剣な表情になった。「ただし、君たち、重要な注意事項がある」
ユウキとミサキは、司書の急な雰囲気の変化に驚いて顔を見合わせた。
司書は静かに、しかし力強く続けた。「歴史の本の中に入ると、君たちは過去の出来事を目の当たりにすることになる。しかし、決して歴史を変えてはいけない。たとえ小さな行動でも、現実世界に大きな影響を与えてしまう可能性があるんだ」
ユウキが不安そうに尋ねた。「でも、もし間違って何かしてしまったら...?」
「その場合、現実世界の歴史が変わってしまうかもしれない」司書は厳しい表情で答えた。「君たちが知っている世界が、全く違うものになってしまう可能性もある。だから、観察者として振る舞い、できるだけ歴史の流れに干渉しないように気をつけてほしい」
ミサキとユウキは真剣に頷いた。「分かりました。私たち、気をつけます」

ユウキとミサキは顔を見合わせ、頷いた。二人で本を開くと、周りの景色が溶け始め、砂漠の風景に変わっていった。
目を開けると、二人は灼熱の太陽が照りつける砂漠のただ中にいた。遠くには巨大なピラミッドの影が見える。
「わぁ...」ミサキは息を呑んだ。「本当に古代エジプトに来ちゃったんだ」
ユウキも興奮気味だった。「すごいね!でも、この暑さはやばいな...」
二人が歩き始めると、突然砂の中から何かが飛び出してきた。驚いて後ずさりすると、それは一人の少年だった。
「あなたたち、誰?」少年は警戒した様子で尋ねた。
ユウキとミサキは困惑した表情を浮かべたが、ユウキが勇気を出して答えた。「僕はユウキ、こっちはミサキ。君は?」
少年は少し躊躇してから答えた。「僕は...アントニオ。そう、アントニオだ」
「アントニオ?」ミサキが不思議そうに尋ねた。アントニオは困惑した表情を浮かべた。「そう…僕、記憶があいまいで...」
ユウキが優しく尋ねた。「ねえ、君はずっとここにいたの?」
アントニオは首を傾げた。「ずっと...?わからない。でも、君たちを見て、何か思い出しそうな気がする」
そしてアントニオは二人に近づきこう言った。
「それより今、大変な危機なんだ。若いツタンカーメン王が即位したけど、王朝を陰で操る悪い大臣がいるんだ。その大臣が王様の墓から王家の印章を盗もうとしている」
アントニオは少し困惑した表情を浮かべながら続けてこう話した。
「その大臣は若いツタンカーメン王の権力を利用して、自分の地位を高めようとしているんだ。王様の墓から王家の印章を盗み出せば、莫大な富と影響力を手に入れられる」
ユウキは真剣な表情で聞いていた。
「へえ、そうなんだ。じゃあ、その大臣は自分の思い通りにしようとしているってこと?」
アントニオは頷いた。
「そうみたいだ。その印章は、王の権威そのものを表すものなんだ。人々は、この印章を持つ者こそが正当な王だと信じている。つまり、印章を手に入れれば、実質的に王としての権力を得られるってわけさ」
「でも、それってとても危険じゃない?」ミサキが心配そうに言った。
「その通りだ」アントニオは真剣な表情で答えた。「だからこそ、僕たちは王家の印章を見つけ出して、大臣の計画を阻止しなければいけないんだ」
ユウキは決意を新たにした様子で言った。「よし、分かった。僕たちで協力して、大臣の企みを止めよう!」
三人は頭を寄せ合い、それぞれの知識と感覚を共有しながら、この世界で何が起きているのか、そして何を守るべきなのかを少しずつ理解し決意を新たにした。
ピラミッドに向かって歩き出す中、近づくにつれ、その巨大さに圧倒される。ユウキとミサキは息を呑んだ。
「すごい...」ユウキが呟いた。「教科書で見るのと全然違う」
ミサキも頷いた。「うん。こうして実際に見ると、古代エジプトの人々がどれだけすごい技術を持っていたか、よく分かるね」
アントニオが二人に向かって言った。「さあ、中に入ろう」
三人は力を合わせ、ピラミッドの中へと潜入した。暗い通路、複雑な迷路、そして危険な罠...全てを乗り越えながら、秘密の部屋を探し続けた。
途中、実際の歴史上の出来事を目の当たりにする機会もあった。神官たちの儀式、民衆の暮らし、そして若きツタンカーメン王の姿...全てが生き生きとしていた。
「歴史の教科書で読むのと、実際に見るのとじゃ、全然違うね」ユウキが感動した様子で呟いた。
ミサキも頷いた。「うん。歴史って、本当は生きてる人たちのストーリーなんだね」
苦労の末、三人はついに秘密の部屋にたどり着いた。そこで王家の印章を手に入れ、大臣の企みを阻止することに成功した。
「やったー!」三人は喜びを爆発させた。
「あ...そうだ...」アントニオは驚いた様子そう言った。
ユウキとミサキは困惑した表情を浮かべた。「どうしたの、アントニオ?」
アントニオは笑顔を浮かべながら説明した。「僕、思い出したんだ。自分の世界に戻れるんだ」
ユウキは目を丸くした。「え?じゃあ、君はずっとここにいたわけじゃないの?」
アントニオは首を振った。「ううん。僕も君たちと同じ世界から来たんだ。でも長くここにいすぎて、それを忘れかけていた。君たちと出会って、自分が誰なのか思い出せたんだ」
続けてこう話した。
「この本の世界には法則があるんだ」アントニオは説明した。「歴史の本は重要な歴史的出来事が正しく進行すれば、そこに介入した者は元の世界に戻れる。

アントニオは二人に向かって言った。「ユウキ、ミサキ、ありがとう。君たちのおかげで、自分が誰なのかを思い出せたんだ」
ユウキは真剣な表情で言った。「僕たちこそ、ありがとう。君のおかげで、歴史の大切さを学べたよ」
ミサキも付け加えた。
三人は固く握手を交わし、そして心の中で「現実に戻る」と強く念じた。
目を開けると、ユウキとミサキは図書館の中にいた。そしてアントニオの姿もあった。
「すごい経験だったね」ユウキが静かに言った。
ミサキは頷いた。「うん。歴史って、本当は生きてる証なんだって分かった。それに、本の世界にはまだまだ知らないことがたくさんあるんだね」
司書が二人に近づいてきた。「良い冒険だったようだね。何か学んだことは?」
ユウキは答えた。
「歴史は大切です。それは私たちの今につながっているから」
司書は満足そうに頷いた。「その通りだ。過去を知ることで、現在をより良く理解し、未来を創造することができる。そして、本の世界の不思議を探求することで、君たち自身も成長していくんだよ」
三人は深く頷き、この日の冒険が自分たちにもたらした新たな視点と知識を胸に、図書館を後にした。
外に出ると、夕暮れ時だった。オレンジ色に染まった空を見上げながら、三人の心の中では、過去と現在、そして未来が、一本の糸でつながっているような気がしていた。そして、これからの冒険がどんなものになるのか、期待に胸を膨らませていた。