「ねえ。お姉様。ジュストが見つけたと言う、アンレーヌ村はどうだったの? 行ってみたいと、いつもお姉様が言っていた場所でしょう?」

 隣を歩くオレリーは、私以上に外に出たことがない。

 辻馬車で行けば片道で三日掛かるというジュストの遠い故郷アンレーヌ村が、とても気になっている様子だった。

「ええ……話に聞いていた通りに、素敵だったわ。民家の屋根の色が色鮮やかで、とても可愛いのよ」

 今思えば本当に、可愛らしい村だった。村長も素敵な人だったし、父に反対されてすんなり出て行ってしまったジュストと結婚出来ないのであれば、彼を頼ろうと思う。

「私も行ってみたいなあ……お姉様、落ち着いたら、私と旅行に行きましょう」

「ええ。そうね。この調子だと、すぐに旅行出来そうだわ。オレリー」

 新しく開発された薬でだいぶ身体が楽になったオレリーは、本当に普通の女の子になったようだった。

 社交界デビューも、適齢の年齢に間に合うかもしれない。

「これからお姉様と、いろんなところに行けますね! 私、とっても楽しみです!」

 見違えるように元気になったオレリーは無邪気に笑い、そんな妹が大好きな私は、楽しそうな彼女を見て本当に嬉しかった。

 けど、目の前で婚約者ラザール様がオレリーに恋に落ちた、その瞬間。

 可愛い妹のことをほんの少しだけでも憎く感じたことは、この先の未来へ進むために私は認めなければいけない。