首を傾げた私にジュストはまた近づき、腰に手を回した。

「ほら……婚約者だから問題ないと、ラザール様と二人になった時が何度かあったではないですか。ミシェルお嬢様」

 そんな風に切ない眼差しで見つめられたって、さっきの笑いの余韻が残るこの馬車内では、何の説得力もないわよ。

「そうね。そう言う事もあったわね」

 とは言ってもラザール様は、ただ単に私と二人きりで過ごしたかっただけのようで、会話内容にもいつもと違うようなことはなかった。

「僕はとても想像力豊かな方ですので、あの時、二人が何をしていたのかなと思い、心痛める時もあったんです……」

「ジュスト……」

 芝居かかった大仰な仕草で胸に手を当てたジュストは、真面目な顔で頷いた。

「ですが、先ほどの反応を見る限り、僕の心配など単なる思い込みで、お嬢様は本当に、可愛らしいお嬢様のままなんだと安心したんです。失礼なことをしてしまって、申し訳ありません」

 どうやらジュストはいつも通り私を馬鹿にした訳でもなくて、ラザール様と私がいちゃついているかもしれないと想像逞しくしていたから、そうではないと知って喜んでいたらしい。