「いえ。長年願い続けたものが、すぐそこにあると思うと、人は叶えることが怖くなってしまうんですね。僕もこんなに怖いと思う感情を……生まれて初めて、知りました」

 整った顔が近づいたと思えば、唇が重なった。何度か触れては離れてを繰り返し、そして、熱い舌が唇に触れたと同時に私の口内へと入り込んだ。

 ゆっくりと歯列をなぞるように舌は蠢き、私の舌を絡め取って唾液を啜った。

 それは、とても不思議な感覚だった。口と口を使ってジュストと溶け合うような、今までにない気分。

「んっ……ジュスト……」

「さっき、僕が編み上げたリボンなんですけど……なかなか、外せないものですね」

 苦笑したジュストを見て私が首を傾げれば、さっき着たばかりのドレスは肩からするりと滑った。まろび出た私の胸を掬うように撫でて、ジュストは私に顔を近付けた。

「……何、企んでいるの?」

 そういう悪い顔をしていた。ジュストは私が彼に何か隠し事をしていたりすると、良くこういう表情になった。それをネタに揶揄われることがわかっているのに、私は嫌な顔をしながらもそれを待ってしまうのだ。