「えっ……演技? どういうこと? ……もうっ……本当に毒を飲んだと思って、心配したんだから!」

 動揺した私の非力な力で胸を何度も叩かれても、抱き止めたジュストはびくともしなかった。彼が十年ほど付いていた職業を考えれば、それも当たり前のことだったのかもしれない。

 けれど、流石に今回はさしもの私も頭に来ていた。こんなにも、心配して……顔をぐちゃぐちゃにして、泣いてしまったのにと。

「そうなんです。僕があのお茶を口に含んだのは、確かなんですけど……あの時、血を吐く前に口を手で押さえたではないですか?」

 そう問われた私は、ジュストが倒れてしまう前を思い出していた。確かに彼はお茶を飲んだ後に、口を右手で覆っていた。

「……え? ええ。そうね。確か、そうだったわ」

「あの時に、僕は手の平に赤い粉を持っていたんです。だから、あれは血ではなく、赤い粉が溶けただけのお茶なんですよ。ちゃんとこれは訳あってしたことなんですけど、ミシェルを驚かせてしまってすみません」

 血では、なかった? 倒れるのも、演技だった? 本当に! よくわからない。なんなの。