城中の豪華な客室へ急遽運び込まれたジュストは、大きなベッドに寝かされた。

 さっきまで荒い息を吐いていたはずなのに、青い顔になっている気がする。けれど、私が握っている手はしっかり握り返してくれているし、早く解毒したらすぐに治るはずだ……大丈夫。きっと、大丈夫だから。

 城で勤める医師である御典医がやって来た時、早馬で呼びに行ったはずのトリアノン侯爵夫妻……つまり、ジュストのご両親が現れた。

「フィオーラ様!」

 私が彼女の名前を呼べば、トリアノン女公爵フィオーラ様は沈痛な面持ちで、部屋に居た人たちに告げた、

「もしかしたら、もう私の義理の息子は、危ないかもしれないわ……ミシェルと、静かに話させてあげたいの。申し訳ないけれど、家族以外は席を外してくれるかしら」

 そんな悲痛なフィオーラ様の言葉を聞き、私は信じられない思いで愕然とした。

 そんなはずはない、私を残して、ジュストが死んでしまうなんて……そんな……そんなはずないのに!

 集まってくれた医者や医療関係者は無言でその場を立ち去り、彼らが去って扉がきっちりと閉まったのを確認したフィオーラ様は、ベッドで横になっていたジュストをちらっと見た。

「もう良いでしょう。そろそろ、目を覚ましたら? ジュスト」

 さっきまでの悲壮な表情はどこへやら、呆れたような表情でそう言ったフィオーラ様に私は驚いた。

 ……え?

 何、嘘でしょう。どういうこと?

 私はこの状況にあまりに驚き過ぎて、涙が引っ込んでしまった。

 青い顔をして目を閉じていたはずのジュストは、パッと目を見開き上半身を起こして、気の置けない関係を築いているらしい義母フィオーラ様に微笑んだ。