毒を飲むのはジュストと私、どちらかで良かったんだ。だから、ジュストはあまり嗅いだことのない香りのするお茶を先んじて飲んだ。

 きっと……そうなるとわかっていて、彼が私の身代わりになったのよ。お茶に口を付けない訳にもいかないし、毒が入っているなんて、指摘が出来ないから。

 ラザール様……いいえ。ラザール・クロッシュは、それほどにまで、自分を虚仮にした私たちを憎んでいた。

「ミシェル……大丈夫かい?」

 わざとらしく馴れ馴れしいラザールが近寄ってきたので、私は周囲に聞かれぬように弱々しく微笑み小声で彼に応じた。

「……何も知らない私が、ここで泣き喚くとでも思っていたの? ラザール様。ジュストのことは貴方には何の関係もないことなので、貴方はどこか遠くに行ってくださると嬉しいわ」

 今まで完全に下に見ていた私に、思いもよらぬことを言い返されたと思ったのか、彼の顔は青黒くなり憤怒の表情を浮かべた。

「ミシェル……」

 思い通りにならず、動揺した? その通りよ。私は貴方の思い通りになんて、絶対になりたくないの。

「……誰か! 早く、ジュストを運んで! 医者を早く、呼んでちょうだい。それに、トリアノン侯爵家に早馬を出して。彼のお父様を、早く呼んで来て!」

 辺りは騒然としていて、ジュストの身体は私の指示通り、素早く運ばれることになった。

 私は立ち去る直前に、一人騒ぎから取り残されたラザールを見た。彼は暗い顔をして、不気味に微笑んでいるように見えた。