サラクラン伯爵はあんなことがあったので、オレリー様とミシェルの姉妹は近くに居ない方が良いだろうと言われ、結婚前からだが、花嫁修業と称して僕が用意した邸で過ごすようになっていた。

 家長であるサラクラン伯爵が認め、他でもない王族も口出しがある縁談なので、これから邪魔が入ることはまず考え難い。

「ふん。幸せで良かったな。まあ、俺もお前から貰った大金を持って、嫌な思い出しかない王都から脱出するよ」

 ザカリーは大きく煙を吸って、煙草を消していた。

「ザカリー、引っ越しするんだ。良かったね。そろそろ子どもも三歳なら、長旅にも耐えられるだろう」

 ザカリーは自分が侍従として仕えているクロッシュ公爵ラザールを憎んでいた。愛する女性を目の前で犯され、彼女は子どもまで妊娠することになったのだ。それはそれは、憎くて堪らなかったはずだ。

 この話を持ちかけて来たのは、彼の方からだ。曰く『ラザールを不幸にするためなら、なんでもしてやる』と。

 ……僕も多分、ミシェルがそうされたなら彼以上に復讐をしたいと思うだろうから、その気持ちはわかる。