まあ……これは、どう考えても好かれている。だから、僕はミシェルが自分のことを好きなことを知りながら、ついつい虐めて怒った顔を見たくなってしまう。

 この子は僕のことが好きなんだなという、確かで簡単な確認作業。


◇◆◇


 早朝の路地裏の独特の空気を吸って、僕は幼い新聞売りからひとつ買った。

 そして、近くにあったベンチへと座り足を組むと新聞を開いた。大きな新聞を開けば顔が隠れるので、話す人も居ないのに僕の口が動いていても誰も気にしないはずだ。

「……まだ、そちらの坊ちゃんご機嫌悪い?」

「当たり前だろ。婚約者取られて機嫌良い男いる訳ねえ」

 ベンチの反対側の端に居た男が答えて、僕は低く喉を鳴らして笑った。

 周囲には、他の人影は見えない。だが、新聞を読んでいる男たちはそこら中に居て、特に目立つようなことをしている訳もない。

 離れて座る僕ら二人が話しているなんて、誰も思わないはずだ。