つんと澄ましてミシェルが頷いたので、僕は執事から時間のある時に提出するようにと渡された書類を取りに廊下に出た。本来ならば彼女の前で書き仕事など許されないが、他でもない僕の主人が許したので問題ないだろう。

 あれは、きっと『寂しいから、まだ一緒に居て』という意味だと思う。へえ。なんだか、素直ではなさそう。

 ……なんとも、お可愛らしい。僕の仕えるお嬢様は、どうやら最高の主人になりそうだ。

 それからの僕とミシェルは、ゆっくりと距離を縮めて行った。僕は信用できる存在で貴女を守っていますと、ことあるごとに見せることで、ミシェルの警戒心は少しずつ解けて行った。

 けど、好きな女の子ほどいじめて怒らせたくなるものなんですよ。それは僕だけではなく、男全般、皆そうだと思いますけどね。

 何故かというと、好かれていなければ、僕に対し怒ったりもしないはず。もし、静かな嫌悪と侮蔑であれば、相当嫌われている。無関心ならば、すべてに無反応。

 ありがたいことに、ミシェルは僕が揶揄っても怒るだけで、最終的には許してくれる。