がらんとした家には、物があまりなく、あまり生活感がなかった。けれど、最低限の生活が送れるような、生活必需品はあるようだった。

 貴族の私には考えられないけれど、そんなものなのかもしれない。

「ええ……あ。ミシェルお嬢様、お着替えになります? そちらが、僕の使っていた部屋なんで、着替えに使って貰って大丈夫ですよ」

 私は彼の勧めに従い、小さな部屋へと入り、これだけはと家出する時も持って来ていたお気に入りのドレスへ着替えることにした。

「……なんだか、物がないわね」

 ジュストの部屋にも、ベッド以外は物がなかった。

 出て行ってしまった息子の部屋だから、全部片付けてしまったのかもしれない。

「……そういえば、ミシェルお嬢様。僕の父親が功績を認められて、この前叙爵されたんです。息子は僕一人なので、戻って来るようにと言われているんですが」

 扉の前に居るジュストが、独り言のように話し始めた。

 護衛騎士ジュストが、私の傍から居なくなる……それは、いつかはそうなるかもしれないと思って居たことだけど、予想していたよりも深い喪失を感じた。