「……ミシェル・サラクランよ。よろしくね」

 僕が仕えることになった『ミシェルお嬢様』に初めて明るくご挨拶をした時、彼女は無表情で素っ気なくそう返した……正直に言ってしまうと『あれ?』と、落胆してしまった。

 自分を気に入ってもらえるだろうと、妙な自信を持っていたからだ。

 僕は自分でも割と見目が良い方だなとそれまで思っていたし、これまでに会った女の子は、全員僕のことが好きになった。

 貴族令嬢や貴族令息の傍に居ることになる侍女や侍従などは、まず容姿が良いことが暗黙の第一条件とされている。別にそれだけがすべてではないが、適材適所の問題だ。そういう者で適正がある者が特に選ばれるのだ。

 貴族は伝統や芸術を重んじ、審美眼に優れている。好みの容姿の者を傍に置くことだって、彼らの持つ権力の象徴となるからだ。

 自分で言うのもなんだが、僕はとても有能だし、短期間で護衛騎士としてのすべてを身に付け、ご当主であるサラクラン伯爵サイラス様も『これならば問題ないだろう』とを僕を認め褒めてくださったのだ。

 そんな素敵な護衛騎士に見えているはずのこの僕が、これからずーっと彼女の傍に居るようになるのに、喜ぶはずの女の子ミシェルお嬢様はあまり嬉しくはなさそうなのだ。

 ……なんなんだ。この僕が傍に居るというのに、そんなに浮かない顔になるのはおかしいだろう。期待通りの反応ではなく、正直面白くはなかった。

「伯爵様からもご説明があったと思いますが、ミシェルお嬢様のスケジュールなども、すべて僕が管理致します。もし何かしたいことがあれば、僕に言って下さい。適宜調整致しますので……」