「ジュストには……いつもお世話になっているから、親御さんへ私が挨拶することは別に構わないわよ」

 これは別に言い訳ではないわよとばかりに、私がつんとすまして言えば、ジュストは快活に笑って頷いた。

「ええ。いつも、お世話しておりますね。ミシェルお嬢様のお世話は、きっと僕でなければ務まらないでしょう」

「あら……随分と自信家なのね。だから、私は貴方のこと、好きって一度も言っていないでしょう?」

 私は自分で言うのはなんだけど、割と品行方正な方だし、そこまでの問題児でもないのに、何を言うのかしら。

「ああ。確かに……そういえば、好きではないとも聞いていないですね。どうなんですか?」

「……ジュストの実家は、何処なの?」

 私が彼の質問を無視して周囲を見回すと、肩を竦めた彼は赤い屋根の家を指さした。

「あちらです……ああ。そういえば、父は留守かもしれません」

 家の外観を見ただけでも息子のジュストには親が不在であると解るらしく、彼は手際よく古い棚の何段目かの後ろに隠されていた鍵を見つけて扉を開いた。

 そして、そのまま招き入れようとしたので、私は驚いた。

「え? 留守なのに……勝手に入っても、構わないの?」

 家主が居ないのに勝手に入って良いのかと問えば、ジュストは肩を竦めて頷いた。

「ええ。貴族の訪問のように、先触れが要るなどの面倒な作法もありませんので、どうぞ……ミシェルお嬢様には狭く思えるかもしれませんが、良かったらお入りください」

「……まぁ、広いわね」