好きだから許せているだけで、『そこまでしてしまうの?』と若干思っている時がないわけではない。隣に座っていた私がわざとらしく後ずさると、彼は驚いた表情をした。

「怖いって……酷くないですか? ……ミシェルがこんなにも、好きにさせるから悪いんですよ……」

 私は拗ねた様子のジュストに微笑み、窓の外を見て言った。

「そろそろサラクラン伯爵邸ね。よく考えれば、こんな時間に帰宅したの初めて」

 夜会では明け方に帰るし、昼過ぎにどこかから私が帰って来るなんて、生まれて初めてのことだ。

「当然ですよ。僕が常にミシェルと共に居ましたからね」

 ジュストが肩を竦めたと同時に、馬車が停まり、彼は先んじて馬車を降り、私へと手を差し出した。

「もう……護衛騎士ではないのね。ジュスト」

 今まで十年ほども続いている関係が変わってしまうことは、なんだか感慨深かった。ついこの間まで、ジュストは私の護衛騎士だったのだから。

「ええ。これからは、違う関係性で僕たちは呼ばれることになります」

 私たち二人がサラクラン伯爵邸に到着したと同時に、お父様が厳しい表情で現れた。

「サラクラン伯爵……」