私はそう思った。だって、当の本人である私には、そんな素振り一切見せないままで、彼はすべての外堀を埋めて、家出した私にその事実を明かした。

「ええ。僕は本当に、怖いですね……嫌ですか? 今なら、引き返すますよ。未来の公爵夫人のままです」

 静かに私に問い掛けたジュストの目は、静かに揺らいでいた。そして、こんなにも飄々として見える彼はもしかしたら、常に暗い不安と戦っていたのかもしれない。

 私への軽口だって、今にも溢れだしそうな熱い想いを誤魔化すために、そうしていたのかもしれない。

 だって、私を揶揄って遊んでは笑ってはいたけれど、こういうしんみりとした空気になったことなんて、一度もなかった。

 だから、常に彼は不安だったのかもしれない。これだって、ここで私が『引き返す』と言えば、二人の関係は終わってしまう。

 それが怖いジュストは、いつも私の動向を窺っていたのかもしれない。

 ジュストは……私のことが、とても好きだから。

「ジュスト。好きよ」

 私がそう呟くと、真剣な顔をしていたジュストは、泣き笑いの表情になった。