「ええ。王都を出てから、ずっと一緒でしたよ。机の上に置き手紙を見つけた時は驚きましたが、まさか普通に長距離用の辻馬車乗り場に居られるなんて……お嬢様の後をすぐに追った僕とて、意表を突かれましたよ。追っ手を攪乱させる逆張りの作戦ですよね。意図通り、成功しております」

 そうやって、私のことを馬鹿にする! イラっとした私は、もう良いとばかりに言い返した。

「余計な、そういう嫌味な評価は要らないから! もしかして、ジュスト……辻馬車での移動中も、付いて来ていたの?」

 この三日間、アンレーヌ村までの旅をしていた私のことを、ずっと見て居たのかと驚きの視線で見れば、目を開いたジュストはにこにこして機嫌よく頷いた。

「ええ。すぐ近くに居ました。長距離の辻馬車に乗り、慣れない夜の野営も、どうにかして周囲に溶け込もうと頑張っていらしてましたね……世話役の御者には、僕の方からも謝礼を」

 それなら、あの御者は、去り際にあんなにも嬉しそうな笑顔になるはずよ。二人から謝礼を貰っていると言うことでしょう?

 しれっとした顔で肩を竦めたジュストは、腹立たしいくらい恭しい態度で手を差し出し、私が抱えていた大きな鞄を渡せと暗に示したので、苛立たしくなりながらもそれを渡した。

 護衛騎士ジュストに追いつかれてしまったたのなら、彼から逃げ切ることはもう無理だもの。

 彼がさっき言った通り、私の短い家出はもう終わりだわ。

 ……このまま、王都の邸へと帰るしかない。