大きな鞄を御者に馬車から降ろして貰い、心付け(チップ)を渡すと、ここに来るまでお世話になっていた彼は、途端にとても嬉しそうな顔になり「良い旅を!」と機嫌よく片目を瞑り去って行った。

 ……あら。平民は何かしてくれたお礼にこうすると以前に聞いていて、それを実践しただけなんだけど……あれは少し、多過ぎたのかもしれない。

 私は家出のために出入りの商人に頼んで用意していた、財布の中にある大小様々な硬貨を見て、まずは貨幣価値を掴むことから始めなければと思った。

 こういう時には、どの程度の金額を渡せば良いのかなんて、私には全くわからないもの。

 ……だって、そうして学ばなければ、私が元々貴族であったとすぐにわかってしまうだろう。

「ふーっ……ここまで長かったわ。まさか、三日間も掛かると思わなかった。遠かったけど、ここまで来たら、見つからないでしょう」

 ここは王都より遠く離れた、山奥にある小さな村アンレーヌ。

 目に優しい緑の中に華やかな色の屋根の小さな家が立ち並び、品良く調えられた庭も綺麗だ。