数日後の昼休み唐突に凜音がこう言った。
「美咲、あんたも小説書かない?」
突然何を言い出すのだろう。だがこんなことを言われても私はいつものようにこう答える。
「いやぁー私なんて普通だからさ」
「あんたの文章才能あるよ」
「凜音ちゃんの前で書いたことあったっけ?」
「ない、作文の記憶しか」
作文の文章で私のことそんなに気に入ったのだろうか。それにしてもなんで今言われるのだろう。いつも褒めているからだろうか。
「やってみようよ」
ダンスの練習もあるけど私は断れない性格なのだ。
「いいけど。なんで今?」
「私の小説、いつも読んでくれるから」
こうして私は部活休みの次の日曜日に小説を書くことになったのだった。

まず初めに小説を書くと言ってもジャンルを何にするかとても迷った。私は推理するには頭の回転も早くないし、恋愛を書くにも胸きゅんとやらも分からないしそもそも恋をしたことがない。お笑いセンスもないのでコメディも書けないだろう。普段SFやファンタジーといった作品もあまり見ない。
「うーん、凜音ちゃん。何を書いたらいいの?」
「服、ダンス、タピオカ、晴れ、太陽」
「え?」
「テーマ!」
突然何を言い出すのかと思ったらテーマの話か。ダンス……。ダンスならかけるのではないだろうか。例えば小さい頃からダンスをやっていて大会に優勝する話とかどうだろう。最初はそんなものでいいのだろうか。
とにかく最初はなんでもいいから書いてみようじゃないか。どうせどこにも出さないのだ。凜音しか見ないだろう。私はなんとなく思いついて言ったものをつらつらと書いていく。

あれから数時間は経っただろうか。最初はなんとなくかけていたが途中からわけがわからなくなってきた。これでは登場人物に一貫性が無いのではないか。細かく描写するにもどう書けばいいのかだんだん分からなくなってきた。
「凜音ちゃん。無理だよ。私は普通の人だよ。書けないよ」
凜音も小説を書いている。集中しているみたいでこちらに気がつかない。ふと見ると別の紙に登場人物の設定が詳細に書かれた紙が置いてあった。あらかじめ登場人物などを別の紙に決めておくことで一貫性を出しているのかもしれない。やってみるか。
私は一度書いたものを全部捨てメモ用紙に先程の登場人物の設定を書き出した。凜音のメモ用紙を見るかぎり詳しく書くほどあとから分かりやすくなるらしい。趣味や身長や体重、誕生日まで細かく記されてある。私も真似して書いてみた。
そしてまた同じような始まり方で書き始める。ただ人物像をハッキリさせたことでさっきよりかは一段とスラスラ状況が浮かび上がってくる。これなら書けそうだ。

短編にはなったが帰るまでには小説がなんとなく完成していた。
「美咲、私はまだかかるから」
「私はできたよ」
人に読んでもらう小説は友達であってもこんなに緊張するものなんだと思った。
「感想、教えてね」
「じゃあ」
「またね」
家へと帰る足取りは少し重い。なぜなら凜音ははっきりと物事を言うところがあるからだ。なにかダメ出しされないだろうか。少しだけ、ほんの少しだけ不安だが今は家に帰ってダンスの自主練習をすることだけ考えよう。