本当に、この人には敵わない。いつだって美記のペースに巻き込まれちゃってるんだ。
「よっと。お姫様♪今からお城に一緒に住みましょうか」
何と何とここでお姫様抱っこをするなんて……打ち合わせにない動きで、私は合わせるのに必死なんですが!
観客も、キスの時から気絶している女子もいるようで、先生たちはあたふた。
気絶しなかった女子たちは目をハートにして、トロントさせている。
……ねぇ、美記って何が目的だったの?
アドリブ吹き込んで、イチャイチャしているようにも見えるけど、どこかまた別のものを見ている気がする。
この、観客の中の誰か。
観客の女子たちに好きな子が出来たとか……そんなんじゃないよね?ってダメダメ集中!
「お姫様?どうかしましたか?」
「え、あ、いや……お姫様だなんて言われる立場じゃないし、お城みたいなあなたの家に行くのは、ちょっと抵抗が…」
「何も心配することないよ。俺が全部から護るし、キミの全部を愛す。経済面のことで不安にならなくて良いよ」
私が一向にセリフを言わないから、美記にアドリブをさせてしまった。
ーちゅっ。
バタバタと倒れる音がした。観客の女子がまた倒れたようだ。
てか、また今もキスしちゃってるじゃん。あれくらいのアドリブをさせても全然大丈夫そう。
こっちの方が美記のアドリブに困っている。
……甘すぎなんだよばかっ。
「絶対に離さないから。今日はね、少し特別な日なんだ」
「と、特別?」
「ん。見てよこれ。これが俺ん家…なんだけど、今日からキミの家でもある」
「え、ここって新居?え、待っってくださいっ。嫌な予感がします…」
「ん?嫌な予感?それは、嬉しい予感ってことだよね♪今日から俺らは同居するんだよ!やったー!」
私は今、本当に嫌な予感がする。たった今、観客の中にお父さんが混ざっているのを発見した。
お母さんも、お姉ちゃんも、弟もいる。しかもみんな、満面の笑みで。
それに、今の美記のセリフ。……点と点が繋がった気がするんだが。
「今日からキミを甘やかしてあげるから、覚悟しといてね」
「!」
「へへっ。これ、言う側もちょっと照れる」
あーもう。私には最初から勝ち目なんてないんじゃん。抗えないんじゃん。
でも、ありがとう。これから、二人の時間を大切にしようと思う。てか、大切にします!
照れて自分の本心を隠さないようにしよう。それで彼が離れてしまうのは、嫌だ。
「あの、なんで、このタイミングで私を好きだって言ってくれたんですか?」
「ちょっと色々準備が大変で……」
お姫様抱っこの時間は終わり。