「ちなみに、二人って仕事ないの?今日は練習するんじゃなかったっけ?なんでここにいるの?」
「あぁ、今、休憩時間なんだ。お昼食べ終わってさ、暇だったから夏葉宅を覗きに来た。体調不良なんだって?」
私が頷くと、海が私のおでこに手を当てて「確かに熱いね」なんて言って来た。
……目の前にお母さんがいるんですけど?勘違いされちゃうじゃん。……それに、されるなら美記が良かったな、なんて。
「…熱何度あったの?」
「三十八度ちょいくらい」
どこか不機嫌そうな美記に少しだけ嘘をついた。本当はほぼ三十九度だったけど、どうせすぐ治るし問題ないだろう。
ちらっとお母さんを見てみればニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている。
私は気に食わなかったから、お母さんをリビングから追い出した。
それに、わざわざ私の顔を見るためだけにここまで来るはずがない。きっと何やら話したいことでもあるのだろう。
この私の推理は的中した。
「…夏葉。伝えなくちゃいけないことがあるんだ」
いたって真面目ですって顔をする美記を見るのはいつぶりだろう。
ということは、それなりに結構重要な話をされるんだ。気づけば私は無意識に姿勢を正していた。
「あのさ、映画化の話なんだけど……ヒロインの弟役の人がドタキャンしたらしくて、クラスメイト役の深谷サンが弟役に繰り上がったんだ。それで、クラスメイト役なんだけど……道琉を引っ張って来ても良い?」
「ドタキャン…道琉は演技すらしたことのない超初心者。おまけに……愛美の事が好きだっていうオーラ丸出しの彼に演技をさせる気?愛美と今絶好調なのに、二人を離したくない。道琉はやめよう?」
道琉が演技できないことは置いといて、愛美には私が忙しくて寂しい思いをさせている。
それなのに道琉まで愛美から遠ざけたくない。……道琉の演技は下手そうだし。
「うん、夏葉さんならそういうと思ったよ。だからね、俺たちは監督に話して来たんだ」
「何を?」
「俺がクラスメイト役もやるってことよ♪変装すればバレないだろうし、クラスメイト役も出番はそこまで多くはないしな」
……え?さては、あなたは深谷サンことクズ男ではないか?
あなたが二役もするってこと?……それは良いけど、弟役がこの人なのは少し嫌かも。
「あからさまに顔を顰めないで?俺はキミの弟役になれて嬉しいな♪キミと関わる時間が一気に増え…グッ!」
「ごめんね?この人キモイでしょ?…それにしても、私たち全員が同じ映画に出演するなんて奇跡だね。なかなか揃わないよ」
クズ男の腹を気持ちがいいくらいに見事に拳を入れた上之さんは、私が当たり前に思っていたことを話した。
そっか、これって奇跡なんだ。