……私、何も知らなかった。そんな重要なこと、一切聞いてすらいない。

「あのぉ?スタッフさん、どう言うことですか?てか、私の作品の情報を勝手に持ち出したのは誰ですか?」

「え、えーと、その話は一旦置いときましょう?それよりも、映画化をするにあたって脚本を書かなければいけないんですが、誰が書くかなども決めなければいけなくて……」

完全に話を逸らされた。この人がまだ女性だから良いけど、男性だったら怒りをぶつけていたところだった。

その相手が私を舞台のヒロインにさせたあのスタッフ(男)だったなら余計に。

…その人は今日は顔を出していなさそうだけど。

「脚本家にまずは任せます。それを読んでみて、直したいところがあればその脚本家さんと一緒に作業したいです」

「分かりました。では、一ヶ月以内に霜島さんへ出来上がった脚本をお渡ししますね」

あーあ、これは大変なことになってきたな。気付けば空は薄い茜色になっていた。

昼に抜けてきたのに、一瞬の出来事のように感じる。濃い一日だったな。

「あの、霜島さんですか?」

そう声をかけてきたのは、私が一番嫌いなあのスタッフ(男)だった。

顔を見た途端に、私は嫌な予感がした。今度こそ私は怒りをぶつけることになる。

「も、申し上げにくいのですが、僕が小説の情報をあのお二人さんにお渡し…しました。すみませんでした!!」

十歩譲って前回の私がヒロインになると決まった時は許せるよ?舞台、正直楽しかったし。

でもさぁ、いくらなんでも勝手に情報を持ち出すなんて御法度だよ!…本の出版は嬉しかった!

ただ、脚本というめんどくさい仕事が増えてしまった私の気持ちを考えてみてよ。

「私、ちょうど明後日から写真のコンテストに出す写真を撮らないといけないわけなの。それに、今新作を書いている途中でもある。今月は体育祭、来月は文化祭だって控えているんだよ?んで、脚本が完成したら私は演技しないといけない。……私が怒るのも分かるよね?あなたよりも私の方が倍くらい忙しいの」

体育祭は本来なら六月あたりなんだろうけど、台風が来て延期になったのが今月末だ。