そう言う美記は今度は私の手を引いて、私の時よりもやや速いスピードで学校へ向かった。

ちらりと横を見れば、いつか美記が撮ってくれた写真のような海が広がっていた。

あぁ、なんて世界は美しいんだろう。あの頃はただただ灰色だったのに、今は全てがキラキラと輝いて見える。

これも美記や海のおかげかな……こ、恋のおかげだったりするのかも?

なんて考えていたら、私の手を引いていた美記が赤信号で急に止まったせいで思い切り彼とぶつかってしまった。

「あぶっ」

「ぷっあはは、夏葉よそ見しすぎ!しかもあぶっ、って何その可愛い反応。はぁーあ、俺、夏葉のこと独り占めしたい」

……「独り占めしたい」なんて勘違いしそうになる言葉、簡単に言わないでくれますか?

そんなに私を勘違いさせるような言葉を言っていると、その初恋の子に振り向いてくれなくなるよ?

「…ごめん。からかいすぎた。ほら、元気出して?」

元気……あぁ、私、今初恋の子に嫉妬してるんだ。彼の言葉を借りれば、私だって美記を独り占めしたい。

恥ずかしいこと思ってるとは自分でも思うけれど、本当のことだ。

でも、いまさらこの気持ちに気づいて素直になったってもう遅い。意味なんてない。

私の恋は叶わなかった。もう、失恋しちゃったんだ。初恋は叶わないって本当のことなのかもしれない。

少なくとも私の場合はそうだった。





 そのまま無言で、私たちは学校に着く。

ずっと美記はどこか心配そうだったけど、私は笑って誤魔化した。

空いている手でおでこに手を当ててみれば、まぁまぁ汗をかいていた。…最悪だ。

「……今から俺、朝練するけど夏葉も来る?…やっぱ、バスケやらなくてもいいから来て」

そう言った美記はまだ私と手を繋いだまま、体育館へと歩き出した。

結局私には拒否権はないらしい。

開いたままの体育館の扉からはシューズが床を擦る音が聞こえていた。キュッキュッと忙しなく音が鳴っている。

……何も抵抗することなくここまで来てしまった。ここに来て私は何をすればいいのだろうか。

「おはようございます!今日は彼女連れてきましたー!」

「…え?」

そんなことを考えていた時に降ってきた言葉は「彼女連れてきましたー」と言う美記の言葉だった。