「わぁ、いつもいつも俺のことを歓迎してくれてありがとう!…王子様って、俺が?お世辞ありがとね♪」
「キャ〜!!ねぇねぇ、王子様がこっちを見たよ?!私、今日死んでも良いやっ…」
王子様のことが好きな女子役の上之さん、演技なかなかだなぁ。それに、王子役の美記も役に入り込んでいる。
これはハイレベルだな……
「あ、そういえば!ねぇねぇキミたち?近くにケンがいなかった?俺、さっきからずっと探しているんだ」
「え、あ、け、ケンサンなら、リナって言う女子と一緒に裏庭へ行かれましたっ」
「そうなんだ……へぇ、どっちから告るんだろうね?ってキミたちは知らないか。ごめん!これは忘れて?教えてくれてありがとね!んじゃ、俺はここで!またね〜」
……やばい。何これ何これ!?めっちゃ演技上手じゃん!初心者だよね、本当に!?
「はい。オッケー!じゃ、一回ここでもう片方のグループと合流します!」
この言葉と同時に、美記が私の元まで駆け足で来た。なんか、鼻歌でもしてそうなくらい顔がニコニコしている。
「なーつーはー!どうどう?俺の演技、上手だった?」
「……美記、過去に役者だったって経験はある?上手すぎて、私、鳥肌立っちゃったっ」
私がそう口にした途端、美記はなぜか少しだけ顔を歪めた。
何か言っちゃいけないことでも言ってしまったのだろうか?でも、ただ褒めただけなのに……
「ねぇ、夏葉って、本当に俺のこと覚えていないの?あんだけ、一緒に頑張ってたのに……」
え?覚えてるも何も、今一緒に話してるじゃん!しかも、一緒に頑張ってたって一体何を?
……とその時、少し遠くで深谷サンと話していた海が駆け寄ってきた。
後ろには深谷サンが何やら上之さんと話をしているみたいだった。真剣そうな二人に、私は直感で別れ話かなと思った。
「佐藤さん、なんなんですかあの演技!主演の人よりも上手でした!俺、さらに佐藤さんのファンになりました!」
「はは、大袈裟だよ。俺なんかよりも、演技が上手な人なんてゴロゴロいるんだから。例えば、夏葉とか?」
……美記、昔の私のこと覚えていないよね?私が子供の頃、役者だったってこと。
どこで誰に知られているのかわからないから、高校でも演劇部には入りたくても入っていない。
それに、今は小説を書かなければいけないので忙しい。
「でも本当、美記の演技には驚いたよ。海の演技も気になってきた〜」
「俺としては、演技見られるの恥ずかしいな。相方が夏葉さんだから余計に緊張しちゃうよ」