それに、上之さんが一緒にいてくれるのは心強いなぁ。
後から聞いた話だけど、二人はお互いに次の舞台で成功すれば、それぞれ主演になれるらしい。
……あんなにイチャイチャしていたカップルが、こんなに凄い人だったなんて驚きだ。
そして、この日から忙しい日々が始まったのだった。
「私ね、アンのこと、好きなんだ。可愛いしピュアだし、それに何よりめっちゃ優しいもん」
「リナ……私、そんな魅力的な女の子じゃないよ」
「何言ってるの?私の恋を応援してくれたアン、たまに見せる天然なアン。どこからどう見ても可愛い女の子」
私は、主役のヒロインの唯一の女友達役を演じている。
ここは原作とさほど変わりはない。しかも、二人きりのシーンだから淡々となんて演技はダメだ。
ただ、ヒロインも際立たせないといけないから、このキャラのさっぱりとした印象を心がける。
「うぅ、私、こんなに男子のこと好きになったの初めてだよっ。でも、自分に自信が無いっ」
「大丈夫。きっと上手くいく、なんて確証のないことは言わないけど、結果がどうよりも想いを伝えることの方が大切だと思う。このままジメジメと終わりたくないでしょ?振られたら、その時は私の腕の中で泣きなよ」
「うんっ。リナ、ありがとう!私、今からこの想いを伝えてくるっ!」
「はい、カットー」
ふぅ、上手くできたかな。……これ、私が演じてはいけないのでは?私、身長が百五十五センチで、結構低めなのだ。
こんなにサバサバしたかっこいい女の子を演じて良かったのかな?
アン役の役者さんの方が少し身長が低いくらいで、サバサバ女子は少なくても身長が百六十くらいあるイメージだ。
今は二つのグループに分けて、台本ありで演技をしてみている。
海と深谷サンは別のグループになっていて、きっと頑張っているんだと思う。
「夏葉、もしかして役者の経験ある?めっちゃ上手じゃん!俺、夏葉に勝てない気がする」
いやいや、そもそも勝負してないし自分で完璧だと思える演技が出来たら、それで良いんじゃないかと思う。
「俺もこんなに初めてで上手な子見たことないよー。あ、そうだ、今度俺と遊びに…」
「私もびっくりした!夏葉さん、私よりも上手だよ!」
ハハハハ……相変わらずのクズ男である深谷サンの言葉を、上之さんは遮った。
逆に別れちゃった方が色々と楽なんじゃないかと思う。
その後も演技しながら雑談を挟んで、とても賑やかな現場だった。……ある光景を目の当たりにするまでは。