* * *
「最高。俺って天才かもしれん」
鼻息荒く、塚原が言う。
我褒めするのも無理がないほど、完成したぬいは上出来だった。
塚原の手によって爆誕した「小さきいのち」を見つめる私の心境は、複雑だった。
――上手すぎる。
刺繍はほとんど左右対称。頭部と胴体もズレずに繋げられているし、縫い目も綺麗だ。
私は納得のいく刺繍ができるまで、三度もやり直したというのに。
天は二物を与えずって言うけど、そんなことはないよなぁと思う。
塚原は顔も良いしスタイル良いしコミュ力高いし(何せこんな無愛想地味女とも臆せず会話できている)、友達に聞いたら成績はそこそこ、運動神経もまずまずだそうだ。
で、これほど器用ときた。圧倒されてしまう。
「すごい上手いよ。初めてとは思えない」
「ありがと!」
というわけで、降って湧いたような私の人生の特殊イベントもこれで終了になるわけだ。塚原は気まぐれで私にぬい作りの教えを乞い、私もそれに応じた。でも完成したのだから、これでおしまいだ。
振り返ってみれば、なんだったんだと首を傾げたくなる。
じゃあ、と立ち上がろうとした私に、塚原が出来上がったばかりのぬいを見せつけてくる。
わかったわかった、上手いって。
苦笑する私に、塚原はこう言う。
「シオン。知ってるだろ?」
彼が言っているのは、キャラ名だ。ぬいは髪が白くて、紫色の目をしている。知っている。それは私が作ったぬい「リリ」の相棒キャラだからだ。
「し、知ってる、よ」
「俺、ファンなんだよね。『昨日の暁』の」
それはタイトルだ。リリとシオンが活躍する、インディーズ漫画。
滅びゆく暗鬱とした世界で手を取り合って生きる二人の、ダークファンタジー。
私は当然知っている。だって、それは――。
「宇佐美さん、作者の『みみ』さんでしょ?」
「なっ……」
なんで知ってんのぉおおぉおおーーー?
という絶叫は放課後の校舎の廊下に響き渡ったものの、日々繰り返されるどこかの生徒のよくあるおふざけだと思われたのか、幸いにも誰かが駆けつけてくることはなかった。
「最高。俺って天才かもしれん」
鼻息荒く、塚原が言う。
我褒めするのも無理がないほど、完成したぬいは上出来だった。
塚原の手によって爆誕した「小さきいのち」を見つめる私の心境は、複雑だった。
――上手すぎる。
刺繍はほとんど左右対称。頭部と胴体もズレずに繋げられているし、縫い目も綺麗だ。
私は納得のいく刺繍ができるまで、三度もやり直したというのに。
天は二物を与えずって言うけど、そんなことはないよなぁと思う。
塚原は顔も良いしスタイル良いしコミュ力高いし(何せこんな無愛想地味女とも臆せず会話できている)、友達に聞いたら成績はそこそこ、運動神経もまずまずだそうだ。
で、これほど器用ときた。圧倒されてしまう。
「すごい上手いよ。初めてとは思えない」
「ありがと!」
というわけで、降って湧いたような私の人生の特殊イベントもこれで終了になるわけだ。塚原は気まぐれで私にぬい作りの教えを乞い、私もそれに応じた。でも完成したのだから、これでおしまいだ。
振り返ってみれば、なんだったんだと首を傾げたくなる。
じゃあ、と立ち上がろうとした私に、塚原が出来上がったばかりのぬいを見せつけてくる。
わかったわかった、上手いって。
苦笑する私に、塚原はこう言う。
「シオン。知ってるだろ?」
彼が言っているのは、キャラ名だ。ぬいは髪が白くて、紫色の目をしている。知っている。それは私が作ったぬい「リリ」の相棒キャラだからだ。
「し、知ってる、よ」
「俺、ファンなんだよね。『昨日の暁』の」
それはタイトルだ。リリとシオンが活躍する、インディーズ漫画。
滅びゆく暗鬱とした世界で手を取り合って生きる二人の、ダークファンタジー。
私は当然知っている。だって、それは――。
「宇佐美さん、作者の『みみ』さんでしょ?」
「なっ……」
なんで知ってんのぉおおぉおおーーー?
という絶叫は放課後の校舎の廊下に響き渡ったものの、日々繰り返されるどこかの生徒のよくあるおふざけだと思われたのか、幸いにも誰かが駆けつけてくることはなかった。