「俺、前からこういうのに興味あってさ、いつか作りたいとは思ってたんだけど、ガラじゃないじゃん? ぽくないものに手を出して、それを知られて周りに引かれるのが怖かったんだよな。やっぱ気持ち悪い?」
「き……」

 私はぎょっとして身を乗り出した。

「気持ち悪くなんてないよ! 何でそんなこと言うの? やりたいことやるの、何も変じゃないじゃん!」

 思わず大声を出してしまったことに我ながらびっくりして、私は慌てて自分の口を手で塞いだ。塚原は目をぱちぱちさせていたけど、少しして、へにゃりと笑う。

「宇佐美さんっていい人ー」

 ……何で私、こんな、ジャンル違いな異性とこうやって話をしてるんだろう。塚原はいかにもスクールカースト上位の女子と毎日楽しく過ごしていそうな奴なのに。
 ただ、会話をしているうちにわかってきたことだけど、塚原はこういうタイプの男子にありがちな、地味女子を小馬鹿にしたような口のきき方はしない人だった。誰にでも平等なのかもしれない。

 塚原――下の名前、知らないけどな。
 隣の席だけど興味がないから、塚原の個人情報は詳しくない。

「よーし、今日はここまでにしておくか。宇佐美先生、ありがとうございました。しょっちゅう付き合わせて悪いね。そうだ、これ授業料」

 お金なんていらないけど、と焦りそうになったところで、手に握らされたのは個包装の小さなチョコレートだった。

「あ、ありが……」
「ここでのこと、俺と宇佐美さんの秘密ね」

 耳元でぼそりと呟かれてぎくりとする。

 硬直していると、塚原は軽快に階段を下りていき、ちょっと振り向いて「バイバイ」と手を振って去っていった。

「やっぱり……チャラ……」

 私は可愛くない女子だから、一人呟いて舌打ちをした。
 こういうことに慣れていない。男子と二人きりで何かするって、まごつくし、塚原が嫌な奴じゃないとしても、どこか気まずい。
 でも、一生懸命刺繍をやって、上手く出来たと顔を綻ばせる彼を見るのは、ちょっと――本当にちょっとだけ――楽しかった。

 一つ、不安なのは、彼の作ろうとしているぬいのキャラが、見覚えがあるということだったのだが。