「宇佐美さん、これ、返してほしい?」

 私は今、同じクラスの塚原という男子に絡まれている。
 明るい髪色。へらへらチャラチャラした態度。クラスでも目立つ方だから、嫌でも目に入る奴だった。
 こういうタイプの男子は本当に苦手で、できれば極力関わりたくない。

 だから今の状況は私にとって最悪だった。
 塚原が手にして揺らしているのは、私お手製のぬいである。約十センチの手のひらサイズ。とある漫画のキャラで、顔の刺繍も可愛くできて、なかなかのお気に入りだった。
 学校に持ってくるつもりは全然なかったんだけど、朝に慌てて鞄にものを詰め込んだ時に入ってしまったようだ。

 ――で、それを気づかないうちに教室の隅で落とし、隣の席の塚原が見つけ、拾ったというわけなのだ。
 放課後、用事があるからと校舎の端に位置する、人気のない階段の踊り場に呼び出された。のこのこ行ってみればこのざまだ。
 最悪だ。こんなのイジメじゃん。

「好きにすれば? もう帰っていいですか?」
「いや、ちょ……これ宇佐美さんのでしょ?」
「ぬいぐるみなんて持ち歩く女キモいって馬鹿にしたいんですよね?」
「違うって。そんなことで呼び出したんじゃないって。何? 怒ってんの?」

 怒るに決まっている。呼び出されて「返してほしい?」と聞かれる以前に、自作ぬいを見られたのが恥ずかしくて私は逆ギレしてるのだ。
 上手に出来たから返してもらえないのは惜しいけど、不良に脅されて何かの言いなりになるなんて真っ平御免だった。気が進まないけど担任にチクろう。先生、塚原君にぬいぐるみカツアゲされました、って。
 高校生にもなって「ぬいぐるみカツアゲされた」なんて報告を大人にするのは悲しすぎるけど。

「勘違いすんなって。宇佐美さん、ぬいは返すからさ」

 そっと差し出された私の可愛いぬい。私は塚原を睨みつけて、ぬいを素早く取り返した。
 塚原は困ったように後ろ頭を掻いている。

「宇佐美さんが作ったんだろ、それ」
「そうだけど」
「だと思ったー。で、お願いがあるんだけど」
「……何?」

 私は顔をしかめ、ぬいを握る手に力を込めた。

「俺にさ、ぬいの作り方教えてくれない?」