悠悟さんは婚約者がいるにもかかわらず他の女性と関係を持っている。

私もそのたくさんの中のひとりに過ぎないのだろうか。

私はいったい悠悟さんの何を信じればいいのだろう……。

悠悟さんが何食わぬ顔で微笑みを浮かべて戻ってきた。

「待たせてすまない。仕事の連絡が入って応対していたから遅くなってしまった。もう車が外に来ているから行こう」

腕に触れようとしてきた彼の手から私は思わず逃げた。

「私、今日はやめます」
「やめる? どうしたんだ急に?」
「言ってなかったんですが明日はミュージカルに行く予定なんです。その準備をしたいので」

冷ややかに返した私を悠悟さんは訝しむものの微笑む。

「そうか。でもお腹は空いているだろう? 食事は近場で簡単にして、昼過ぎには家に着くよう送るから」
「今すぐ帰りたいんです」

突き放すように言った私は、もう悠悟さんの顔を見ることもできなかった。

裏切られたというショックと悲しさで、彼の顔を見たら号泣してしまいそうだったから。

もう一秒だって一緒にいるのが辛かった。

「送っていただくのもけっこうです。私はタクシーで帰ります」

踵を返した私の手を悠悟さんが掴んだ。

「急にどうしたんだ? 何かあったのか?」

私は目を伏せて震えた声で言った。

「もうこれ以上あなたと関係を持つのは無理です。私はもう傷つくのが怖いんです」

悠悟さんの手を振り払い、私はホテルから出て行った。