「社長、会田様からお電話です」

俺は思わず唇を引き結んだ。
何度言っても彼女がこの番号に連絡してくることに辟易していた。

「あの、社長、今日は午後から立て込んでいるので、今から昼食に行ってもよろしいでしょうか」

俺が受話器を取ろうすると、美香が何故か少し言いづらそうに聞いてきた。

「ん? ああいいよ」
「失礼いたします」

美香は一礼すると自分の持ち物を持って足早に社長室の扉に向かった。

彼女が出て行くのを確認する前に俺は受話器を取った。

「こんにちは、舞佳さん。わざわざここに電話しなくても俺の番号はご存じでしょう?」
『あなたのスマホに掛けても出てくれないからです』

舞佳さんの声は尖っていた。

「申し訳ありません。ずっと忙しいもので」
『悠悟さんが私を避けているのはわかっています。どうせわからずやの小娘がわがままを言っているとうんざりされているんでしょう』

拗ねたような口調に俺は思わず微かに息をついた。

彼女は俺の婚約者だ。