丁寧で完璧な仕事ぶりに感心するうちに、俺は彼女に惹かれていくようになった。

それまで俺の前に現れていたのは頭から足の先まで綺麗に磨いて飾り立てた女性ばかりで、彼女たちは俺のことも外見と地位だけにしか興味ないようだった。

それに対して美香は化粧気もなく黒髪を束ねているだけだったが、それがかえって元の容姿の良さをナチュラルに表していて凛として美しく見えた。

俺のことも仕事に関係があること以外ではまったく興味を示さず、毅然として業務にあたり俺を支えてくれていた。

そんな彼女の徹底とした様子に感心すると同時にミステリアスな魅力をも感じて、気づけば俺は彼女のことばかり考えるようになっていた。

だからあの日、美香がそれまで見せたことがない思いつめた表情をして驚いた。

心配に思い、慰労も兼ねて食事に誘った。

酒が入った彼女の普段は見せないくだけた言動が新鮮でかわいいと思って、ますます惹かれた。

もっと一緒にいたかったが彼女がだいぶ酔ってしまったので家まで送ろうとしたら、タクシーの中で失恋したことを聞いた。

「俺なら君を悲しませないのに」

あの時言った言葉は本心だ。

すると彼女も「社長のような人とだったら楽しい恋愛ができたかもしれません」と返してくれた。

あの言葉が俺の自制心を緩ませた。