「あ、はい、まぁ……別に帰らなくてもスマホがあればできるのですが……。じゃあスマホお返しいただいてもいいですか?」
「だめだ」

手をのばすと、社長は私のスマホを持つ手を遠のけた。

「俺といるのにゲームばかりするな」
「ええ? 返してください」

私は手を伸ばしたが、社長がさらに長い腕を掲げるものだから届かない。

身を乗り出せば、社長は意地悪く笑って立ち上がる。

長身の社長にそうされては、ぴょんぴょん飛び上がったってスマホに触れることもできない。

「お願いですっ、返してくださいぃ」
「いやだね」

社長が勝ち誇った顔をして私を笑って見下ろすのが癪に障る。

腹が立つのにまかせて思いっきり飛び上がって着地した瞬間、バランスを崩してしまって社長の胸に崩れ込んだ。

思わぬ事態だったようで社長も咄嗟に私を支えられず、ふたりで社長の後ろにあったソファに倒れてしまった。