「で、でもお忙しいのに」
「飲ませてしまったのは俺だ。家の前まで送るくらいの面倒はみさせてくれ」
「すみません……」

私が住所を告げるとタクシーは発車した。

「君がこんなに酔うなんて驚いたよ。意外と酒はいける方なんだな」

社長が笑みを浮かべながら言うので、私は照れながら首を振った。

「いつもはこんなに飲まないんですが、今日はつい」
「どうしたんだ? 仕事のストレスか?」
「いえ、そんな」
「じゃあ失恋でもしたのか?」
「まぁそんなものかもしれません」

冗談めいた社長の言葉に私は思わず笑った。

「新作ゲームで新しい推しキャラに会えないのが悲しくて」なんて言ったら、社長ならきっと失笑するんだろうな。
なんて想像して内心で苦笑いしていると、社長は少し黙ってから言った。

「俺なら君を悲しませないのにな」
「ふふっ、そうですね、社長のような人とだったら楽しい恋愛ができたかもしれません」

噂が本当なら、歴代秘書たちが社長に惹かれるのもわかる気がした。

外見はさることながら、普段の仕事ぶりや今夜の気遣いに満ちた食事や楽しくさせてくれる会話からなにまで社長は完璧だ。

完全無欠のハイスペッグ。

いるんだなぁ、こういう二次元にしかいないような男性がリアルの世界にも。

こんな人に評価してもらえて一緒に働けて、私は充実しているな。

なんて満ち足りた気持ちでいたら、猛烈な眠気が襲ってきた。