「佐那、いい名前だね」

唯織はうなづきながらにこにこしている。

「唯織さんは、」

「唯織。呼び捨てでいいよ。敬語もなし」

ね、と私に笑いかける。

優しい笑顔の中に圧を感じて、私はうなづいた。

「じゃ、俺多分この時間ここに大体いるから。よろしくね」

差し出された手に右手を出すと、ぎゅっと握られた。

「じゃあ」

気まぐれに手を放し、振り返って歩いて行ってしまう。

私も、家に向かって歩き出す。

あんなに長かった家までの道がいつもより短かった。

自室のベッドに寝そべって、さっき握手した右手を突き上げる。

開いたり閉じたりして右手を見つめた。