『立花‥‥‥‥‥‥採用だよ。』


「……うそ………ほんと……に?」


『ん‥‥まるで今の俺達ようだ』


綺麗な指を私の目から溢れる涙が
沢山汚してしまう



『‥…俺もずっと会いたかった』


先輩のその言葉に
大好きな胸に飛び込んだ私を
きつく優しく抱き締めてくれた



物語の結末を私はまだ知らないけれど、
二人があの後もこうして
会えているといいなと願う‥‥



何度も優しく繰り返される
優しいキスが
会えなかった時間を埋めていた。



その日の夜


仕事がようやく終わった瀬木さんは
今日は飲みすぎないと約束した2人と
お酒を飲みながら過ごしていた



和木さんたちは
明日の朝一で東京に戻り
そのままお仕事に直行らしい


『隼人、日和ちゃんの名前も
 入れるんだろ?』


えっ?


『そうよね?私は載せたいけど……
 先生どうします?』


ニヤニヤと頬を赤らめて話す2人は
やっぱり程よく酔っていて
明日帰れるのかと心配になる


今から仲さんに薬貰っておこうか……


『任せる』


ドキン


ほろ酔いなのか眠いのか分からない
瀬木さんの瞳を見ていたら
テーブルの下で
指をからめられるので焦った


私がこういうのにあまり慣れてなくて
恥ずかしくなって俯くと
小さく喉を鳴らして笑った気がする



「瀬木さん、ありがとうございます。」


顔が絶対赤いから
俯いたままでしか伝えられなかった。


『……和木、矢野って載せて。
 弓矢の矢に野原の野。』


ドクン


『何だよ?矢野って』


『いいからそう入れとけ、
 万年営業が』



瀬木さんは絶対分かってる


あの言葉を選んだ私が矢野日和だと。


どうしよう………
あのときの自分が大嫌いだったのに
今は少しだけ好きになれる


勇気を振り絞り
からめられた手を握り返せば
耳元に寄せられた唇から何か聞こえた



『隼人、矢野って何だよ!?
 おい、イチャイチャすんな!!』



『そうですよ先生!
 教えてくださいよ!?』


『はっ、教えるか。
 さっさと帰れ!!』



私の夏休みはこうして始まり、
人生で一番沢山を学べた
最高の時間だった



『おやすみ日和ちゃん』


明日の朝が早いから今日は早めに寝ると
2階へ行ってしまった2人に
挨拶を済ませて
後片付けをしていたら
テラスに出て行く瀬木さんが見えた



「どうかした?飲みすぎたんじゃ」


『立花、おいで。ほら』


「わぁ………」


2人で見上げた空に満月が輝き、
あの写真のように白樺の間から
美しい光を届けてくれている


大きな手が私の手を包んで来たので
瀬木さんをそっと見上げれば
ずっと空を眺めていた


"今日は一緒に眠ろう“


さっき言われた言葉に
顔が熱くなったけど、
暗闇と月の光がいまは隠してくれる


先輩の事がもっと知りたい
離れていた6年もこれからもずっと。