私に一歩、
また一歩近付いてくる足音と
心音がリンクしていく。


倒れそうだけど俯かない
俯きたくない‥‥‥‥‥‥



『‥‥良くできてた。』


「えっ?」


閉じそうだった瞳を開いて振り向けば、
少しだけ目を細めた瀬木さんが笑ってる


「嘘……だ」


『嘘じゃない‥‥良くできてる。』


久しぶりに頭を
くしゃりと撫でられた私は、
力が抜けてその場に座り込んでしまった


どうしよう
嬉しくて泣きそうだ……


もう採用されてもされなくても、
瀬木さんに誉められただけで
私はじゅうぶん心が満たされる



『ここで待っててアイツらに
 渡してくるから。』


頭を優しく撫でてくれた
瀬木さんが出ていった後、
落ち着かない私は本棚に向かった


きっとどうでもいいことに対してなら
こんなにも不安にはならないけど、
あんなに素敵な作品だからこそ
こんなにも不安になるのだと思う


瀬木さんも戻ってこない


ちゃんと高城さん達が読み終わるまでは
何だかんだでいつも向かい側に座って
瞳を閉じて待ってるのを知ってるから


本棚に背をつけて座ってから
足を抱えて俯くと
浮かび上がる物語の2人と重なる
先輩と私。


全然あの女性と私なんて
似てないんだけど、離れていた6年、
会いたくても会えなかった私と
少しだけ重なったんだ……



「(先輩なんかに会いたくなかった!
 顔もみたくない‥‥大嫌い!!)」



私があの日離れるツラさから
先輩を忘れる為に放った言葉


もしあの後
私の声が彼女のように
出なくなってしまったら今みたいに
自分の声で訂正することは
二度と出来ないから私は幸せ物だ


それを考えると
ただ愛しい人に愛する思いを
寄せていただけなのに
伝えれないまま
声を失うなんて苦しすぎる



いけない
また泣いてしまいそうだ‥‥


側に居てくれる人がいるのに
いつのまにか大切にできなくなるのは
色々な情報に翻弄されてしまう
時代のせいなのかもしれない




暫くして
頭に触れてきた優しい手に
俯いていた顔をゆっくり起こす



『やっぱりここにいた……
 全部読み終わったよ』



「‥‥…」


愛しい人が
私の目の前に座ると
そっと私の頬に手を触れてきた



『届きそうで届かない。
 でもいつの日か2つの影が
 重なりあう時が訪れるなら、私は
 辛抱強くあなたを待つでしょう』


「ツッッ!!」


『いつかまた必ず巡り会えるから‥‥』


「…………瀬木さん」


手が震えて、瀬木さんの
肌触りのいいカットソーを握り締める


そんな私に影が落ちると
そっと重なりあった唇を受け入れた