ん‥‥‥柔らかい……
何だろう‥‥‥この感触


温かくて居心地がよくて
そこから動けないような
気持ちにさせられる


久しぶりにこんなにも安心して
ぐっすり寝れてるからなの?


ん?‥‥‥寝れてる?


重い頭を手で押さえてから
瞳をゆっくりと開いた


あれ‥‥ここ‥は?‥‥‥
なんでベッドに?


課題の途中で寝てしまったのか
洗いたてのシーツのいい香りがする


えっ?


視界の端に見えたのは
長くてキレイな指


私の指じゃない………
この指は‥‥‥‥


覚醒してきた頭は瞳を
勢いよく開かせた


「(嘘!!)」



少しだけ体を起こすと
長くてキレイな指をたどり、
寝息をたてて眠る瀬木さんへうつる



落ち着くつもりが
頭の中は既にパニック。


私と同様横向きで眠る瀬木さんと
いつからこうしていたんだろう‥


先輩は寝不足だったから
このまま寝かせてあげたい


とりあえずここにいてはいけないと
衝動にかられた私は
気付かれないようにシーツから
抜け出そうとした



『‥行くな』


ドクン


体を起こした私の手首を
キレイな指が掴む
瀬木さん起きてしまったの?



「あ、あの………すいません、私
 仕事中に寝て……顔洗ってきます」


『駄目‥行かせない』


ドクン


駄目って………どうして?


心臓が今にも飛び出しそうな程動き、
握られた手首から瀬木さんに
それが伝わってしまいそうになる


「せ、瀬木さん!
 寝ぼけてるんですか?」



『矢野』


えっ?




今……………
なんて言った?




時が止まって
自分一人がそこの世界に
取り残されたような悲しい感覚になる



まさか‥‥‥‥‥だけど
聞き間違えないとは思う


確かにはっきりと聞こえた




『矢野‥‥逃げないで』


「…………ツッ!!」


手を振りほどいた私は
その場所から逃げるように
空いていた窓から外に飛び出した


どうして………


どうして私の名前なんかを
今更……先輩が呼ぶの?