「(眠いけど頑張ろう……
 今日の夜はこれだけ頭を使えば
 嫌でも寝れそうだから)」


静かにペンをはしらせていくと
与えられた問題は恋だった


……恋か


恋と聞いて思い浮かぶのなんて
一つしかないに決まってる。


だって私は
その人にしか恋なんてしてないから


6年経って他のことは忘れても、
先輩の閉じ込めた記憶だけは
全部覚えてる。


それぐらい
恋ってすごいことなんだと思う



瀬木さんは
どんな恋をしてきましたか?


頭に思い浮かぶのは
図書館でいつも先輩の隣で
笑っていたキレイな人


今は恋人はいないって言ってたけど
別れてしまったのだろうか‥


本当にお似合いで、先輩もいつも
彼女には柔らかい
表情になっていたから覚えてる


初めて先輩を知った日から、
放課後に図書室で時々
顔を合わせていた私達


どちらからも
そんなに話すことはなかったし、
時々すれ違えば面白い本を
教えてもらう程度だった


窓際にいつも座る先輩を
一目見るために、
一番遠くの向かい側に座って
本を読むのが臆病な私に出来ること



『隼人、お待たせ』


先輩の元にはいつも帰る前に
来るキレイな人がいた


その人が来ると
無表情な先輩は必ず笑った


それだけでその人のことが
好きだと分かるくらいに。


自分とは絶対叶うことのない
相手だけど、叶わなくても、
あの女性に向けられた
先輩の笑顔が見たくて
そこに通い続けてたのかもしれない


先輩は1年のクラスでもやっぱり
すごく有名なほど格好よくて、
尾田先輩の名前を他の人から
頻繁に聞くことが多かった



『これ読み終わったけど読む?』


初めて話したあの日から
少ししか経ってないのに
まさかまた先輩の方から
話しかけてくれるとは
思わなかったので驚いた。


そんな事がたまらなく嬉しくて
受け取った本を抱き締めた私を見て
優しく笑った顔


それが今でも忘れられない。


だって彼女以外の私にも
優しくそう笑ってくれたから。