長い足を片方だけ伸ばし、
折り曲げた片方の膝に
手を置いた瀬木さんが
私の方に視線を動かすと
頭を優しく撫でてきた。



心臓が胸の中で激しく鼓動して、
私はどうしていいか分からず
膝におでこをくっつけた


キレイな指が頭に触れている。
ただそれだけのことなのに
こんなにも心が動くのは何故だろう


どうして私は
この人じゃなきゃ駄目なんだろう‥


他の人を好きになれたら
どんなに楽だろうって
何度も何度も思って忘れようとしたのに
この人にしか気持ちが動かない。



「瀬木さん……」


『ん?』


「……私」


その時、ポケットに入れていたスマホが振動して慌てて取り出す


どうしよう……電話だ


『出ていいよ』



「ありがとうございます。
 ……もしもし」



"もしもし、立花?安藤だけど"


しまった!!


電話しようなんて言っていて、
旅行のことで頭がいっぱいで
安藤君のことをすっかり忘れてた



"立花、聞いてる?"


「あ、ご、ごめん安藤君。
 また後で電話していい?」


"ごめん、今大丈夫か聞くの忘れてた。
あとでメールするよ"


「うん、また後でね、ばいばい。」


出掛けようって言ってくれてたのに、
夏休みに入ってしまって
申し訳なかったな。





『安藤君って‥誰?』


えっ?


スマホを閉じた私は、
横に座ったままの瀬木さんの方を
勢いよく向いた


「ツッ!!」


鼻が触れてしまうほどの距離に
瀬木さんの顔があり
私は思わずスマホを落とす



『立花』


少しずつ近付く顔に
心臓が壊れそうで、気付いたら
両手で瀬木さんの肩を押していた。



「と、友達です、同じ文芸専攻の。」


瀬木さんの肩に置いた手が
どうしようもなく震えてしまう


「すいません…やっぱり
 私部屋から出てます。
 仕事中にすいません」


『ここにいて』


「でも」


『ごめん、意地悪したな‥‥。
 仕事に戻るよ。
 夕食まで読んでていいから』



顔が熱い‥‥体も熱い


そんな私の頭にやっぱり
いつものように優しく触れるなんて、
この人はズルいのかもしれない


そして
やっぱりここにいたいと思う私は
もっとズルいのかもしれない


立ち上がった瀬木さんの肩から
両腕が落ちて私は俯いたままいた



『立花‥‥‥
 明日からアシスタントが
 始まるからよろしく。』


「……はい」