お兄ちゃんは、
旅行がてら論文など
色々纏めたい事があると
部屋に隠っていた


「彩、お兄ちゃんのとこ行かないの?」


『んー、やめとく。』


「えっ?……彩らしくないね、
 どうかした?」


只今並んで文芸の
レポートを作成中だ。


2階の窓からは、一面森の景色が見えて
気持ちが落ち着く。
お兄ちゃんが
ここに来たいっていうのも納得だ。


着いてからはまず
別荘の近くを彩と散歩した。


お互いこんな自然に囲まれるのは
人生で初めてだったから
空気の綺麗さ一つにも感動してしまう


同じ夏の季節なのに、
暑いけど涼しさも感じられ、
ここでしか味わえない雰囲気を
楽しんだ。



そして今
パソコンでお互いデータを
集めながらレポートに奮闘するものの、
お題の難しさに手こずっている


『私ね、櫂さんの事好きだけど、
 困らせたくはないの。
 だからここにいられるだけでも
 いい思い出出来てるし楽しいから。』


彩……
私とは違った大人の片思いに
自分がしていた片思いが子供過ぎて
情けなくなった


『それより
 瀬木さんって作家なんでしょ?』


「うん、
 ここにも執筆中の本を
 仕上げるために来てるから」


『はぁ……櫂さんといい瀬木さんといい
 文学に携わる人ってどうしてあんなに
 素敵なんだろ。
 櫂さん恋人いるのかなぁ』



瀬木さんは恋人がいたと思うから
恋愛はしたことあると思うけど、
お兄ちゃんは分かんないなぁ‥
兄弟で恋の話って
なかなかしないもん


私のことを大事にしてくれてるのは
痛いほど伝わるけど、
お兄ちゃんのプライベートって
よく考えたら謎だ


『やっと終わったーー!!』



それから夕方まで缶詰状態で、
レポートをなんとか
纏める事が出来た私達は
残りの夏休みに猶予が出来た喜びで
いっぱいだった


せっかくこんなにも
自然が近くにあるのに
家の中ばかりでは息が詰まる



疲れて眠ってしまった彩を残して
もう一度散歩をしに
外へ行こうとすれば、
お料理のいい香りが鼻を掠めた


「あの‥‥
 何かお手伝いさせてください」